どこでもない場所

  • ほるぷ出版 (2010年4月1日発売)
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感想 : 51
4

だまし絵みたいな絵本
とは言っても絵は巧妙で繊細だ。
気がつくと、笑みがこぼれていることに気付く。

燕(みたいな鳥)が飛ぶ郊外の住宅地に何気にある木。少し高いところまで上った青年が、ロープでミニチュアの家の屋根にある尖塔を結わえ吊っている。と思いきや、その家は、少し離れた場所に建っている。

石造りの宮殿内部。天井を支える柱同士は、栗の木の葉の先端のように、先端が尖った形に開口され、夜空が見えている。そして遠方から手前に視点をずらすと、その暗がりと瞬く星たちは、いつの間にか夜の高層ビルに点灯するライトになっている。

朝霧がかかる木々に囲まれた湖。そこにはちょうど人が跨いで移動できるくらいの岩がにょきにょきと出ている。リュックを背負った人たちが、湖に落っこちないように気をつけて渡っている。しかし絵本の右では、いつの間にか湖ではなく、雲の上に突き出したお城の上部。人々は不安定な様子でそのお城の飛び出た塔をジャンプしている。

手前にはランプを片手に、雪が積もった林の間の凍った川(だろうか)を、一列になってスケートを楽しむ青年たちがいる。そしてその上流に目を向けると、雪が雲に、ランプは星になっている。

お屋敷の広間には、そこの天井ほどの高さがあるオモチャの家が置かれ、子ども二人がそのオモチャの家にある家具や人形を持って遊んでいる。何人かの人形は、オモチャの家の二階の手前から奥に向かい、そしてUターンをして子どもたちのすぐ近くまで来ている。いやその大きさや表情から本当の人間のようだ。

公園には2つの円形の泉が作られている。手前の泉の畔にいる女性の手には、空になった鳥かごが。また泉を囲むように植林された木の葉は、綺麗に羽を広げた鳥の形に整えられている。ただ2本だけ葉がなく、そして実際の鳥となって羽ばたいている。

ここはスキー場?遠くから木々の間をスキーヤーが滑り降りてくる。しかし手前では雪が桜の花に変わり、スキーヤーも桜の木の上だ。そしてすっかり春の陽気の元、少女は読書を中断し、桜の上のスキーヤーを眺めている。

この本の表紙の絵にもなっている。湖に張り出す土地は、船の形の柵に囲まれている。いや、地続きだけではない。実際に船に乗っている家もあるのだ。

天井は見えないが、これは部屋の中か?屋上か?老人が一人木製の柱時計や机や棚に囲まれている。そして向こうの壁が見えず、幾重にも続いて置かれている木製の家具は、いつの間にか遠方にあるビルのてっぺんとなっている。

家の玄関にたどり着くには、前庭にある迷路になった生け垣をクリアしないといけない。

手前では、岩にしゃがんだ海パン姿の少年が目の前でサーフィンをする男女を眺めている。いや待てよ。青緑の海水は少年の右側では徐々に緑の木々となり、打ち寄せる高波は、遠くにそびえる雪を頂く山々となる。

アーチ状に美しく造られた建物内部の柱や壁や天井は、実は分厚い本で構成されているのだ。
言葉が守ってくれ、思想が支え、思考が導いてくれるとある。

若い女性が植林をし、男性がレンガを積み重ねている。鳥の目になって見ると、レンガは家に変化し若木は立派な木に成長している。

月夜で十分に明るいはずだが、星たちが瞬く。いやこれはホタルか?家の屋根や庭では、家族がホタルを捕まえようとしている。

ダンスホールには男女がせいそうをして踊っている。その奥にも、そしてその奥にも。いやその男女の輪郭がはっきりしない。女性はホールと外を仕切るカーテンに、男性は暗闇にフェードアウトしているようだ。

お城の屋上では、老人と孫がチェスをしている。その盤上の白黒のチェック柄と駒は、遠望の景色の濃緑の木々、雪原、そこに建つお城と一体化しているようだ。

ゆったりとした広間の長椅子にまどろむ若い女性、そばには貝殻を耳にあて座っている男性。
いやそこは半分部屋で、半分は海なのだ。
潮騒の香りとさざ波の心地よい音が聞こえてきそうだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年6月6日
読了日 : 2023年6月6日
本棚登録日 : 2023年6月6日

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