時代が追いついていなかったフィンセントの類いまれな才能と、苦悩。
テオとの固く結ばれた絆。
テオのフィンセントに対する愛情と尊敬。それゆえの憎しみ。
そして何より、林忠正の先見の明。
フィンセントの才能をいち早く見抜き、昇華させたのは、そして彼を運命の土地アルルへ導いたのは、彼の日本に対する強い憧れと、日本人画商の林忠正、加納重吉の協力と理解の賜物だ。
林忠正が彼を運命の土地アルルへと導き、フィンセントはアルルの地で後に名作となる絵をいくつも生み出した。
表紙絵の「星月夜」。1889年に描かれた作品で、それは、この本を元にすると「耳切り事件」の翌年にあたる。病室にいたころだが、この上なく自然の、特に糸杉の美しさに感動し、目を奪われていたころに描いた作品だ。
そう知ると、絵が不思議と、それまでと違って見えてくる。
うねるような空の中で、煌々と輝く星や三日月。りんとした糸杉もしっかりと描かれている。孤高に、空に挑んでまっすぐ伸びる。
絶望の中で希望を見つけたかのように映った。フィンセントが、自然の美しさにすがるように手を伸ばしているように見えた。
テオと一緒に、私も胸が熱くなった。
そしてまたこれは、フィンセントとテオのほかに、日本人の林忠正と加納重吉の物語でもあった。
富山出身のアヤシと、金沢出身のシゲ。
どちらも個人的になじみのある土地だったので、二人の出身にまず驚いた。親しみと興味が湧いた。
日本美術、特に浮世絵が、こんなに待ち焦がれていたものだったなんて。
革新的だった「印象派」は当初、全く見向きもされなくて、「ぼやっとしている」という皮肉をこめた名称だったなんて。
歌川広重の「大はしあたけの夕立」。
裏表紙に載っていて、説明を読みながら思わずまじまじと見つめた。
じっくりと見ると確かに、突然の雨に傘を差す人やマントのようなものを被る人、いろいろいて、何より、傾いた構図にすることで、確かに絵が動いて見えた。
これが大きなカンヴァスに油彩で描き込まれたのではなく、薄っぺらな紙に印刷された木版画だということ。確かに、すごさが伝わってきた。
フィンセントとテオの最期。
彼らの未来を生きている私たちはとっくに彼らの運命を知っていたが、それでも、その描写に心を揺さぶられた。
37歳。あまりに若すぎる。
実在の美術を題材に、こんなに昇華させられるなんて。原田マハさん恐るべし。
「たゆたえども沈まず」という言葉。意味を知るととても素敵で、これからの人生の標にしようと思った。
フィンセントの作品を、ぜひ生で見てみたい。
ゴッホ展に、行くと決めた。
ルーブル美術館にも、人生で一度行ってみたくなった。
そして、「ゴッホのあしあと」も読もう。
- 感想投稿日 : 2021年11月4日
- 読了日 : 2021年11月4日
- 本棚登録日 : 2021年11月4日
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