読みながらずっと、舞台に立つ役者に落ちる光とチンダル現象のあの光の道筋を、自分一人しかいない劇場で眺めるような孤独を感じていた。ノスタルジーというよりも、在りし日を振り返った時に得る現在の自分との比較の上での孤独感のようなものがあり、それはこの本が作者の自伝的作品であるという部分によるものだと解説までを読むと納得する。
はじめにトムはジムという青年紳士はこの劇の中で最もリアリスティックと言うが、その言葉が姉ローラとジムが過ごしたロマンチックな時間の後のシーンに繋がる。
ジムはローラに対して「インフェリオリティ・コンプレックスだ」と評し、まったく悪気なく残酷にその考えを変えるべきだと言う。ジムは自身も以前はそうだったとも言うが、ジムの中には自身の容姿に対する確固たる自信がある。ジムはローラと踊りキスをするが、そんなジムには婚約者がいる。
ジムとのやり取りは確かにローラの心を溶かしたし、それはジムの心からの優しさ故なのだけれど、それにしたってジムという人物がもたらしたこの家族への変化というのは残酷なんだよなあ。
ジムという青年紳士はこの家族(とりわけアマンダとローラ)にとっての夢であり、この閉塞感を覆す待ち望んだ存在であったように思う。それは作者の半生で起こった、姉ローラを取り巻く様々の縮図とも……希望を抱き、散り、トム(作者)は家を捨てるが、姉への感情を捨てきれないでいる。
作者の姉が現実にロボトミー手術を受けたように、ジムの言葉の数々はロボトミー手術の提案で、ローラが大切にしていたガラス細工のユニコーンの角が折れてしまったのはロボトミー手術そのものを表現しているのだろうか? 分からないや…
ジムは現実幻想問わず"夢"という存在そのもので、誰よりもずっと輝かしく描かれる。対してこの家族が辿った道というものは、結局のところジムという夢とは触れられそうな距離まで近づきこそすれ、交わることができないままだった。
- 感想投稿日 : 2023年6月27日
- 読了日 : 2023年6月27日
- 本棚登録日 : 2023年6月27日
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