虞美人草 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1951年10月29日発売)
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感想 : 137
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◆感想◆
すごかった‥。
美女藤尾がどんな悪女かと思ったら、井上親子(父娘)のパラサイト感と小野 清三の優柔不断さに、驚いてしまいました。
5年間も会ってなかったのに、口約束だけで結婚を信じて待つ井上親子(父娘)。東京にも押しかけちゃうところ、現代だったらストーカー気質で恐怖に感じます。
小野は、井上家との縁談を断る際、知人の浅井君に代理で行かせるダメ男っぷりです。

小説の最後、藤尾が自殺します。
女性視点でこの小説を読むと、一見強そうな女性の方が嫉妬で傷つき、内気そうな女性の方が強かに生きていく印象を私は持ちました。
(※小説の中では、「(気が強い)藤尾が一人出ると昨夕の様な女(内気な小夜子)を5人殺します。」と真逆のことを欽吾が言っていました。)

娘を亡くして悲しんでいる藤尾の母に向かって
「泣いたって、今更仕様がない。因果だ。」
と言うサイコパス感‥。因果なんて言えないよ‥。

難しい言い回しが多いので、吉本隆明の「夏目漱石を読む(ちくま文庫)」を先に読むと、理解し易くなると思います。

◆お気に入りの言葉◆
「菜の花を染め出す春の強き日」

◆印象に残った場面◆
甲野 藤尾、宗近一(兄)、宗近糸子(妹)、甲野 欽吾(藤尾の義兄)の4人で博覧会に行きます。
夜のイルミネーションが「竜宮城みたいに綺麗」と感動する女性陣に対し、男性陣はこう言います。
 宗近 「僕は三遍目だから驚かない。」
 欽吾 「驚くうちは楽があるもんだ。
     女は楽が多くて仕合わせだね」 
(感想: 男たち、ちょっと冷たくないか?!)

歩き疲れてお茶をしてる時、藤尾に気があるはずの小野が見知らぬ女性(小夜子)と一緒にいるところを見かけてしまいます。プライドが高い藤尾は、嫉妬してしまいます。

中盤のこの場面くらいから、どんどん進展し、面白くなっていきます。

◆登場人物◆
甲野 藤尾:
傲慢な女性。小野さんが将来の夫になると思っている。親の口約束で、宗近が許嫁だが、宗近をバカにしていて一緒になる気はない。

小野 清三:
学校を出て学位論文を書いている。藤尾と仲良くなり、好きになる。貧乏な頃、京都の井上狐堂先生の書生をしていた。先生の娘の小夜子と結婚させられそうになるが、その気がない。

甲野 欽吾:
主人公の藤尾の義兄(異母兄弟)。哲学科を卒業。何もしないでブラブラしている。神経衰弱でおかしい変人扱いさらる(漱石の面影を投影)。遺産相続を放棄。

宗近 一(はじめ):
甲野欽吾をよく理解している親友。きっぷはいいが、劣等生で外交官試験に落第ばかり。藤尾の許嫁。藤尾が好き。

宗近 糸子:
宗近 一の妹。甲野欽吾のことが好き。古風で控えめ(漱石の理想の女性像?)

井上 小夜子:
小野清三の先生である、井上狐堂の娘。父である狐堂先生と小夜子は、小野が夫となり、一緒に住む事を既定の事実としている。(理由:書生時代から小野の面倒みていたから)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文学(日本_近代)
感想投稿日 : 2022年4月10日
読了日 : 2022年4月10日
本棚登録日 : 2022年3月12日

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