ビスマルク - ドイツ帝国を築いた政治外交術 (中公新書 2304)

著者 :
  • 中央公論新社 (2015年1月23日発売)
3.88
  • (16)
  • (28)
  • (20)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 383
感想 : 32

政治家の動機と結果について考えさせられる本。ドイツ帝国の創建という輝かしい政治的業績が実は、本来彼が目指してきた政治的スタンスと大きく異なっていたことが明らかになる。また彼の外交手腕も、カリスマとして神聖視される割には状況に応じた「急場しのぎ」の連続で、絶体絶命のピンチも時々の外的状況の変化で運良く脱し、とりわけ内政面では必ずしも彼の思いを実現することは最後までできなかった。プロイセン君主主義を奉じ、伝統的な権益に執着する田舎ユンカー政治家が、十九世紀最大のドイツの政治家になるまでの軌跡は、圧倒的に面白い。

もともとはドイツ帝国の樹立よりもプロイセンの大国化を目指していた。伝統的なプロイセン主義者であるはずが、それと相反するドイツ・ナショナリズムの祖となるのだからなんとも不思議。外野から見れば、明らかな矛盾や変節が、本人からすれば極めて自然な発展的融合であったりするのは、政治家や歴史を見ていく上で大切な視点であろう。超保守主義者にして、ニューディールの辛辣な批判者だったマッカーサーが、日本では若いリベラルなニューディーラー・グルーブに熱心に頼り、戦後日本の形成に驚くばかりの自由を与えていたのも思い出された。

ビスマルクの「動機をめぐってはこれまでに幾度となく歴史家たちの頭を悩ませ、様々な解釈が登場して」いて、折に触れて著者は「的外れ」「一面的」だと批判するが、その割には出てきた新説は良いとこどりで目新しさに欠ける。そもそも編集部から、初めてビスマルクを知るかもしれない読者に向けて書いてほしい、と注意を受けたにもかかわらず、現代にビスマルクの生涯を蘇らせることに失敗している。

紙数が限られているにも関わらず、各章こどにいちいち「先行研究」を紹介し、そのくせ最愛の妻にして、亡くなれば「パパもすっかりダメになってしまう」と言われたヨハナも、最期にさらりと触れる程度。医者の通告も聞かずに暴飲暴食の限りを尽くしてきたとか、彼の声の「高さ」といった人間的な側面は本文に落とし込まず、あとがきまで待たねばならない。辞任の一報は、イギリス首相をして悲痛の念を覚えさせ、国際社会に将来に対する不安感を感じさせたらしいが、同時代のビスマルク評をもっと読みたかった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2015年5月29日
読了日 : 2015年4月2日
本棚登録日 : 2015年5月29日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする