ぬるい眠り (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2007年2月28日発売)
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感想 : 592
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『嫉妬というのは相手をしばるものかと思っていた。とんだかんちがいだ。嫉妬にしばられてがんじがらめになるのは自分なのだ。』

『その言葉は私の耳元で、夏の日のカスタードみたいに甘く崩れた。』


 短編集で、最も印象が強かったのが「災難の顛末」です。私の中で江國さんといえば特別な事件がクローズアップされるよりかは、日常の一瞬を切り取った連続のようなお話を書かれるイメージです。が、災難では初っ端からある種事件が起きます。主人公は、91ヶ所もノミに右足を刺され、「はちはちに腫れて」しまうのです。
 以降、主人公の生活は一変します。通院し、肌を出さない服を着て、愛猫のシャンプーをいい香りのものから海藻の匂いのするものに変え、ノミ対策に明け暮れます。それでもなんと今度は左足がはちはちに腫れるのです。
 主人公は当然結婚まで考えていた彼とスキンシップどころでは無くなり、なんなら電話すらろくにできなくなります。仲の良かった友人がどんな言葉をかけてくれまいが行動してくれようが(ノミのことは黙っている)、陳腐で膜の外側のことのように感じ、原因となった猫、また動物は愛していたはずなのに恐怖の対象でしかなくなってしまいます。
 このお話、江國さんの実体験なのか聞いた話を基にしたのかあるいは想像なのかわかりませんがもう恐怖です。文章を生業にしてらっしゃるので当たり前に描写がうまく、もうグロテスクなほどだし、主人公がノミに刺されたことから生活の全てが一変し果てに憔悴する様子がリアルすぎます。『他のすべての人たちも、みんなみんな憎くて死にそうだ、と思った。みんな憎くて死にそうだ。』

 恐ろしいので、明日は大掃除をします。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年6月19日
読了日 : 2022年6月19日
本棚登録日 : 2022年6月19日

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