少女地獄 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (1976年11月29日発売)
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表題は3篇を含む若い女性を主人公とした書簡体小説。その他の短篇と合わせ、実質6篇の短篇集。約260頁。

「何んでもない」(少女地獄)
耳鼻科医の臼杵から同業の白鷹へと送られた手紙から、開業したばかりの臼杵のもとで看護婦を志願した美しい姫草ユリ子が巻き起こした事件の顛末が語られる。病的な嘘つきのユリ子はいわば承認欲求の塊ともいえる。言葉遣いや雰囲気は時代差もあって現実離れしているが、テーマとしては今日的で身近に読める。臼杵と同じく、ユリ子を憎むような気持ちは起こらず、哀れを感じた。

「殺人リレー」(少女地獄 P97~)
バスの女車掌であるトミ子が、同じく女車掌になりたい希望をもつ友人への手紙という形でトミ子の身に迫った危険が綴られる。はじめに、トミ子の別の友人であるツヤ子からトミ子への手紙が紹介され、恐ろしい裏の顔をもつある男についての警告にはじまる。少し尻すぼみな印象。

「火星の女」(少女地獄 P120~)
冒頭は手紙ではなく、女子校の廃屋に近い物置の火事跡での少女の焼死体の発見と、直後に起きた同校の校長の失踪し、女教諭の自死、教頭による学園の資金持ち逃げといった一連の事件を報じる新聞報道にはじまる。つづいて、焼死した張本人である「火星の女」こと甘川歌枝の遺書によって、歌枝が死を決意するにいたるまでに起きた出来事と学園の暗部が明るみに出る。かなり動きが大きく、かつ後味の悪い作品。

「童貞」
肺病で死にかけて街をさまよっている若い男が、偶然から話しかてすぐに去っていった幻のような女性に一目ぼれをする話。明確なオチもなく、本書中もっとも不思議な作風。主人公が童貞であることはあまり内容に関係ない気もする。

「けむりを吐かぬ煙突」
新聞記者である主人公による事後の独白。記者の男は世間で評判の良い未亡人を疑い、周囲を嗅ぎまわっている。夫の死後、未亡人が住む邸宅の図書館には煙突が取り付けられていたのだが、その煙突が冬のあいだに煙を吐くことは一度もなかった。記者は家政婦を手がかりに、未亡人の身辺に関するある証言を手に入れる。ミステリに分類できる作品は、未亡人の謎とあいまってバランスの良い一篇と思える。

「女坑主」
元女優であり、妾から本妻に取って代わったあとに夫の急死によって炭坑主となった新張眉香子を中心に据えた作品。主人公である青年は、政府の指示により海外で敵国の対立を誘発する目的でダイナマイトを所望するために、眉香子のもとを訪れている。豪放な眉香子はこれを快諾するのだったが、青年を引き留めて帰そうとはしない。眉香子の劇画的なキャラクター描写を味わうための作品。

著者作品を読むのは今回がほぼ初めてだった。過去に読んだなかでは江戸川乱歩に近く、寓話的な乱歩の作品をリアル寄りに詳細化した作風という印象をもった。ストーリーの特徴としては、「童貞」を除いてはいずれも、ワイドショーが喜んでネタにしそうな事件を扱っているという点で共通している。姫草ユリ子をはじめ、全般に女性キャラクターの描かれ方に強い印象が残る。会話文をはじめとして作品に漂う雰囲気から、過去の日本をノスタルジックに体験する楽しみもある。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年6月5日
読了日 : 2022年6月5日
本棚登録日 : 2022年6月5日

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