漱石と三人の読者 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社 (2004年10月19日発売)
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感想 : 17
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漱石が彼の作品を誰に向けて書いたのか、
という疑問を当時の社会制度や一般国民の東大卒に対するイメージ、
更に文壇で流行している文学の手法や主義などのデータをもとに
作品を分析し解明していく。
扱われている作品は主に前期三部作と後期三部作。
それに『虞美人草』と『我輩は猫である』も扱われている。
誰に向けて、という疑問には、主に三つの答えがあって、
一つは漱石の門下生や文壇といった、「顔の見える読者」に対して、
二つ目は朝日新聞に勤めていた漱石が新聞社から言われていたであろう
朝日新聞を読む、当時としては上流階級の人々、「何となく顔の見える読者」に対し、
三つ目にはそれ以外の、未来の読者でもあり、また漱石の作品など読まず
記号と化した『こころ』や『漱石』と言った名詞を使う
「のっぺりとした顔の見えない読者」に対して作品を書いていると言える。
漱石はどれか一人の読者に向けて書く場合もあるが、
多くの作品では三人ないしは二人の読者を想定して
彼らのバックグラウンドにあるものによって違った読みが出来るようにしている。
それは例えば『三四郎』においては、東大の構内を知っている者(顔の見える読者)は
美禰子は野々宮を挑発しているということが分かるようになっているが、
それを知らない一般大衆(何となく顔の見える)には
単に三四郎を挑発しているように見えるといった具合である。
三人目の顔の見えない読者に対しては、故郷の御光と三四郎の結婚話といった形で
話題を提供している。
そういった意味で、いろいろな読みが出来る漱石作品はやはり凄いと思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新書
感想投稿日 : 2007年7月26日
読了日 : 2007年7月26日
本棚登録日 : 2007年7月26日

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