夏への扉

  • 早川書房 (2010年1月25日発売)
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本棚登録 : 698
感想 : 65
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『夏への扉』、なんと日本で映画が作られるというので話題になっている。中身を全然知らないのでネタバレをくらわないよう、古典的名作とされる本書を読むことにした。

タイトルからして思春期の少年のひと夏の出来事だろうと読みすすめると、その想像とは猫が出ること以外全く合っていなかった。主人公は30歳の技術者で違うにもほどがある。

この思い違いは竹宮恵子の『夏への扉』のアニメ化のときに聞きかじった情報が自分の脳を支配していたためらしい。

名作であるが、悪女の罠にはめられ何もかも失う主人公、の展開は、社会人になる前に読んだらいまいち感情移入できなかっただろう。ある程度歳がいけばこそ、ベルがどれだけやばい女かを理解できる。

主人公の境遇が理解でき、感情移入できないとこの作品の評価は全然違うものになる。いくつかの偶然が物語を動かす上での必然と思えず、都合のいい展開に見えてしまうかもしれない。

しかし、そのいくつかの奇跡のような偶然が、胸のすく展開に導いていく。作者はこのように偶然を操らなければいけないのか。そんなことも学べたと思う。

なお、この小説はガチのSFだが、どちらかと言うとコメディ寄りで、いくつもギャグシーンがある。「レナード・ヴィンチェント」という名前などクソ笑う。いくらでもシリアスにできるだろうに、ぶれずにギャグに振るところも見習いたい。

「猫好きの人間にむかって、猫好きのふりをすることは難しい。」これもまさに真実である。作者が猫好きであることには一点の疑いもない。

ズィム軍曹もきっと猫好きで、たまに制服に猫の毛がついているのではないか、ぐらいまで想像した。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年5月2日
読了日 : 2021年5月2日
本棚登録日 : 2021年5月2日

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