テロルの決算 (文春文庫)

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2月1日購入。2月6日読了(3日間
一人の少年がおこしたこのテロルからは右翼についての一つの逆説が導かれる。
天皇に対して徹底した忠誠を誓い、自らの信念と情熱だけを糧に一人テロルを実行する行動力は、現存右翼の腰砕けな態度からしてみれば「右翼の鏡」である。しかし「一人一殺」それがたとえ本音だとしても、それを実行することをどう捕らえるべきなのか。右翼とはロマンチストである。二矢少年のもつ微塵の澱みもない純粋さは右翼にの魂の核である。しかし、澱みない、疑う術をもたないほどにまで肥大した純粋さは「狂気」を孕むものだ。大人は純粋ではない。それは決して不純であるということではなく、純粋であれるのであればありたいが、社会の残酷さや人間の非情さを知る人間はもはや純粋ではいられないのだ。これが大人になるということだと僕は思う。だから「本音」を「建前」で覆い隠して生きていかなければならない。二矢少年は少年だからこそ神格化されるほどの右翼になれた。「建前」を知らない「少年」だったからこそこのテロルの決行に及ぶことができた。そう考えると今の右翼からは後世彼のような本物が生まれることはないだろう。それは大人になったということであり、必ずしも非難されるべきものではないが、同時に彼らが存在する意義もなくなる。三島にしろ2.26にしろ特攻隊にしろ、「本物」には狂気と悲劇が付きまとうのはそれはやはり彼らが一個の逆説だからである。
この手の話では加害者についての記述にどうしても力がいってしまうのが常である。特に、彼の生涯はその出生から逝去までドラマに満ちていて、それだけで話がまとまってしまう。しかし、本作は被害者である浅沼の人生にもしっかりと焦点を当てている。そのため二矢少年と浅沼のあの一瞬の交錯がさらにダイナミズムあるものに感じられた。傑作である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション・手記
感想投稿日 : 2008年2月7日
読了日 : -
本棚登録日 : 2008年2月7日

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