愛と幻想のファシズム(上) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (1990年8月3日発売)
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本棚登録 : 3523
感想 : 236
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「必要ならば人の命を奪っても許される人間がこの世の中にはごく僅かだがいるのだ、と」
上巻だけで500ページに及ぶなかなかの長編だが上巻の要旨としては上の一文で十分?

橇を引くためだけに生まれたはずの奴隷のような人間が農耕を手にして、多くを要求するようになってからというもの社会に決定的な歪みが生じたと生粋のハンターである鈴原冬二は看破する。弱者が淘汰され、強者が快楽を享受する社会を取り戻すという狩猟社のイデオロギーが反感を買うばかりかかえって熱狂的な支持を得ることとなる。
日本国内で規模を拡大させればさせるほど自分たちの敵「ザセブン」のどうしようもない巨大さを実感。「希望の国のエクソダス」と同じく、経済、通貨をテーマに描く以上、どうしても話の規模感は世界スケールにならざるを得ない。敵として描くにはザセブンは大きすぎる気もするが下巻でこの壮大な物語がどう着地するのか楽しみ。

トウジの根幹にあるのは金やセックスといった世俗的な快楽を超越したもっと動物的な快楽主義である。その快楽を得るためにはどんな暴力も厭わない、ある種、ひたむきな姿勢が人を惹きつけるのだろう。トウジ自身が自分の快楽を政治や独裁から離れたところに見つけた時、暴力は不要な訳でなんだかんだで下巻でトウジが興醒めしちゃったりしないかと不安。




読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年8月17日
読了日 : 2021年8月17日
本棚登録日 : 2021年8月17日

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