草笛の音次郎 (文春文庫 や 29-4)

著者 :
  • 文藝春秋 (2006年4月7日発売)
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山本一力氏の本は初めて。
高知県出身で、東京都立世田谷工業高等学校電子科を卒業という経歴だそうで、電子科卒ならSFっぽいもののほうが得意なんじゃないかと想像するが、それとは全く真逆ともいえる、江戸の深川、浅草あたりを舞台とした時代小説の作家のようだ。

本書は友人からの借りモノだが、自身の趣向での選択なら、おそらく選ぶことはなかった。知らない土地を散策したかのような読後感だ。

「三度笠、縞の合羽に柳の葛籠(つづらこ)、百両の大金を懐にー。今戸の貸元、恵比寿の芳三郎の名代として成田、佐原へ旅する音次郎・・・」という紹介のリード。

三度笠に、縞の合羽と言えば、少々古いが「木枯し紋次郎」の「あっしには関わり合いのねぇことでござんす」が一世を風靡した時代があった。以後最近では、股旅モノは貴重な存在と言えるかもしれない。

「貸元」とは、丁半賭博の元締め。賭博で負けた客に金を貸すから貸元というのが語源のようで、現代で言えばヤクザ、時代用語なら渡世人の親玉だ。

今戸の親分に、その兄弟分である佐原の親分から祭りへの誘いの便りがあったが、今戸の親分は風邪気味で体調不良。ということで、代貸の源七の推挙をうけた音次郎が、この度初の名代として旅に出ることになった。

何にも知らない若造の音次郎が、「仁義の切り方」を徹底的に仕込まれ、初旅を心配するお袋さんに用意された、持て余すほどの備えの品を葛籠に詰め込んで旅に出る。読者は、音次郎とともに股旅道中を体験できるのだ。

道中事件に巻き込まれつつも、音次郎の持って生まれた男気のある爽やかな性格と、技量で切り抜けていく。岐路には二人の舎弟をもち、宿敵こませの十郎との勝負には、胸のすくような決着をつけ、立派に名代の務めを果たし帰ってくる。

ちなみに音次郎の好物は鰻。今でも浅草界隈に鰻屋が多い。山本一力氏はどうやら食通のようで、鰻の蒲焼の表現もさることながら、うどん屋とか、ところどころに「食」へのこだわりが垣間見られる表現が出てくる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 山本一力
感想投稿日 : 2018年7月7日
読了日 : 2018年7月5日
本棚登録日 : 2018年5月27日

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