笑い三年、泣き三月。

著者 :
  • 文藝春秋 (2011年9月16日発売)
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「漂砂のうたう」で直木賞受賞の女性作家、木内昇(のぼり)作品。

昭和21年10月、まだ焼け野原の景色が延々と続く東京。そこへやってきたのは、万歳を極めようと地方から出てきたばかりの岡部善造。45歳。
大空襲で両親、兄をいっぺんに失い、浮浪児となった田川武雄。栄養失調の11歳。そのせいで耳から滲出液が出て垢も鱗の様に嵩を為している。
そんな武雄は、こののんびりした、間の抜けたおじさんについて、しばらく食料を得ようと思っている。
決して感情を表さない子供だった。
武雄は文字しか信じない。印刷物になっている文字だけを、貪る様に求め読んだ。およそ子供らしくない子供だった。
栄養失調で体も小さく物事を多く知る武雄は、他の子どもよりも屁理屈を言う様で、いつも傷が絶えない。

そんな武雄と善造が雇ってもらえたのは元映画人の杉浦。
小屋を建てて、出し物、初めはストリップをしようとしていた。そこで初めは全然受けなかった、誰をも傷つけない笑いを目指す善造のコントが、しばらくすると、その妙に朴訥で、ほのぼのとした内容の笑いがうける様になる。。。。。。

初めは、お笑いの創世記の話なのだろうかと、読み始めたのだが、100ページを過ぎたあたりで気づく。
ミリオン座で知り合う踊り子や、同僚などと戦争を経験したあとの人格と価値観の違いから問題も起こる。
決してブレない善造の生き方と武雄への接し方。
決してブレない冷淡な光秀。
戦争に協力してしまうことになった映画人、杉浦の絶望。戦争記者として従軍した大森。

それぞれの悩みと苦しみは彼ら自身の生きにくさでもある。

読み進めるうちに、それぞれの人生の再生と、
反戦のテーマが

不器用な生き方しかできない岡部善造の言葉に、涙するページも多数。心に残る言葉がたくさん出てきます。
感動の一冊でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2019年10月15日
読了日 : 2019年10月15日
本棚登録日 : 2019年10月11日

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