秋葉原事件 加藤智大の軌跡 (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2013年6月7日発売)
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本棚登録 : 299
感想 : 39

2008年に起こった秋葉原での無差別殺人事件の犯人について、どのような経緯で犯行に至ったかを記したノンフィクション。
 母親の虐待に近い過度なしつけにより、突発的な暴力や非常に婉曲的な表現でしか自分の感情を表現できない。その結果、現実世界では生きにくくなり掲示板というネットの世界へ没頭するものの、そこでも自分の存在を否定されて、居場所がなくなった結果、犯行に至る。
 この過程を詳細な取材に基づいて、丁寧に1つずつ事実を積み上げていくスタイルなので、読んでいるうちに彼がどんどん自分の中に入ってきて怖かった。なぜなら自己責任社会と承認欲求というのはまさに今のテーマであるから。彼の承認欲求の発露は他人ごととは思えない。仕事でもプライベートでも家族でも誰かに必要とされてこそ人間は生きることができるのであって、社会から梯子を外されてく様が読んでいて辛かったし、「人間は言葉の動物である」という言葉が響いた。
 本著で語られるネタとベタの代替関係も興味深くて、現実とネットの関係をこの言葉で置き換えることで理解が進んだ。彼が好きだった曲として、BUMP OF CHICKENの「ギルド」が紹介されていて、その歌詞と加藤の重なり、そしてもし歌詞のとおり彼が汚れた世界を受け止めることができていたら、どうだったのか考えてしまう。
 2トントラックで歩行者天国に突っ込んだ挙句、ダガーナイフで無差別に殺傷するという同情の余地もない。しかし善悪二元論で安易に片付けるのではなく、どうして?を突き詰めることが本当の意味で同じようなことが起こらないことの最大の予防策だ。(杓子定規にダガーナイフの所持を禁止してもしょうがない) 
ぺこぱ風に言えば「圧倒的な悪に対して思考停止して懲罰願望をいたずらに発揮することはもうやめにしよう」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年1月8日
読了日 : 2020年1月7日
本棚登録日 : 2020年1月6日

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