ジュンパ・ラヒリが米国にて小説家として大成功したのちにイタリアへ移住。そしてイタリア語で書いたエッセイ。第二言語を学習する際の心持ちが赤裸々に書かれていて興味深かった。小説家である彼女にとって言語は特別な存在、人生そのもの。これまでの作品でも描かれてきたとおり英語とベンガル語の2つで板挟みになっていてアイデンティティクライシスに苛まれている。そこにイタリア語という何のルーツもない言語が入ってくることで自分のバランスを整えていく過程がオモシロい。第二言語の学習においてはどのようにモチベーションをキープするかが重要だと思っていて彼女はイタリア語に対する愛がそれにあたる。知りたい/話したい/書きたいという欲求のベースに言葉への愛を持っている人はうらやましいし強いと思う。また彼女がイタリア語を学ぶ上で不安に思うことを正直に書いている点がかなりグッときた。というのも英語話者が第二言語を習得しようとする過程を書いた本を読むのが初めてだった。「よそはよそ、うちはうち」というのは重々分かっているけど同じような困難に直面していることに安心した。分からないこと、変化すること、不完全であることに価値を見出す気持ちが大切だと思い知った。大きな達成感や喜びは大きな障害や苦しみを乗り越えないと得ることはできない。年を取ると予定調和に流されていくのが常である中、本著は何か止まってしまいそうなときに人を奮い立たせる能力を持っている。また本著には2篇の短編小説が含まれておりイタリア語で執筆されたものである。英語の小説では縦横無尽だった彼女の時間や場所のレンジの広さや大胆な展開はないものの、設定のシンプルさゆえの奥行ある感じが良き。英語話者が獲得したイタリア語で書いたエッセイを日本語訳で読むという言語を巡る不可思議さも本著の魅力と言えるだろう。
- 感想投稿日 : 2020年7月7日
- 読了日 : 2020年7月4日
- 本棚登録日 : 2020年7月4日
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