太宰の有名な作品を収めた贅沢な一冊。
こうして読んでみると、太宰の中にある自分への不信感や他人への恐怖心、それをどの作品も反映してるように思う。
文章が意外なほど美しく、リズミカル。
「走れメロス」の文体は、メロスが疲労困憊しながらも、体に鞭打って前に前に疾走する姿が感じられた。
簡単ではない文章なのに、するする読める。
とくに口語体の、話すような、語りかけてくるような言葉のリズムが心地よい。
聖書からの引用、女性の言葉遣いのたおやかさ、上品さなど、代表作を並べてみるとわかる太宰らしさを発見することができた。
大学生以来の「斜陽」が一番刺さった。
あの頃はこんなに感動しなかったのに。
没落していく貴族の姿が美しく静かに伝わってくる。
華族や宮様の品格のよさと、そこには相入れない俗人の世界の違い。
言葉遣いも違い、生活態度も違い、生きることに対する必死さは感じられない。
市井の人々から見ておママごとに見える生き方。
時代に取り残されようとしている人々、忘れ去られようとしている人々がこの時日本にもいたのだなと、その生き方が強く印象に残っている。
それだけではなく、おママごとみたいな生活、生き方をしているかず子は、ある人に恋をする。
その恋愛の姿も、やはりどこか浮世離れしている。
現実感がなくて、ふわふわしているようにも思う。
でも、情熱的で、時代がどうとかよりも、世間がどうとかよりも、自分の心だけを大切にする生き方を選ぼうとするところが、とてもしなやかにたくましく感じ、不思議な感動が呼び起こされた作品。
- 感想投稿日 : 2020年3月4日
- 読了日 : 2020年3月4日
- 本棚登録日 : 2020年3月1日
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