それから (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1985年9月15日発売)
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今でいう「働いたら負けだと思ってる」的な堂々たるニートっぷりの主人公・代助。親が資産家のおかげで衣食住に不足なく、教養を受け道楽を楽しみ人生を謳歌。読者の私としては、うらやましい限りである。
一方、代助の父は一代で財を築いた実業家であり、兄の誠吾も社交家で毎日仕事の付き合いに明け暮れている。兄嫁も夫の忙しさには寂しさを隠して理解を示している。ところへ、学生時代の親友・平岡が会社のいざこざに巻き込まれて辞職し、東京へ戻ってきて代助を訪ねる。平岡は金に困って奔走していた。平岡には三千代という妻がいるが、彼女は学生時代から代助とも親しかった。平岡の結婚に三千代を斡旋したのは代助である。三千代は心臓が弱く、子を成したが亡くし、また平岡の辞職によりいっそう具合を悪くしている。
そういった背景の中、代助は平岡に金を貸したり、貸すために兄嫁を訪ねたり、といったエピソードがだらだらとスローテンポで描かれる。平岡がパンのために奔走するのを気にかけながらも、自分はパンのためにあくせくしたくない。とニートっぷりは一点も曇らず。
そんなフラフラしてないで世帯でも持って一人前になりなさいよ、と父をはじめ外野が代助に結婚をすすめてくる。この縁談の催促を、代助は前々から持ち前の曖昧な態度でのらりくらりと交わしてきたのであったが、いい加減にせえよ、と父の怒りは増幅中。兄嫁も心配しあれやこれやと口出しするようになる。そんな中、代助は、親友の妻である三千代に対する自身の気持ちに気付いてしまい……。


前半の、のらりくらり具合もそれなりに面白い。が、後半、三千代への怒涛の告白に心震わされた。物事はどんどん行き詰まっていくばかり、残りページ数から見て、この展開にどうやって決着するのか……と思っていたら、まさかの終わり方で(笑)
えっ!それからどうなったのよ?!と思わずつっこんでしまった。さすが「それから」である。あえて書かなかったのでしょう。

全体に漂う耽美感。代助の、世の中に対する捉え方に色彩がついてまわるのが美しい。
世の中が動く、というのは、もうニートではいられない。文明の進む方向は経済が中心になっていく、という民主主義に対する意見なのかな。繊細さんは生きづらい世の中に……。それとも、もっと深い意味があるのかな。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年4月3日
読了日 : 2021年4月3日
本棚登録日 : 2021年4月3日

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