探偵チームKZ事件ノート 消えた自転車は知っている (講談社青い鳥文庫)

  • 講談社 (2011年3月15日発売)
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感想 : 28
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 中学受験のための塾に通っている六年生の女の子、彩と、その塾の成績優秀者の中からさらに選抜して作られたサッカーチーム(強い)KZのメンバーを中心とした男の子たちが、身近な事件の謎を解くミステリー小説シリーズの第一作。KZは「カッズ」と読み、文武両道で地域の女の子たちの憧れの的といえる集団。『花より男子』のF4みたいなものだと思う。
 彩の一人称で物語は綴られる。学校の友だちとは話が合わない、嫌われないように気を使いすぎて疲れることがある、パパは仕事で忙しいし、ママはパパと高校生のお兄ちゃんの機嫌ばかり気にしている、小学一年生の妹は可愛いけどその天使っぷりがたまに鼻につく、そんなふうに思ってしまう自分が嫌いなんだけど、ともかくそういうわけで家にも自分の居場所がないように感じる、受験勉強は、自分で選んだ私立の学校に行くという目的のためにコツコツと進めること自体は苦ではないが、そうはいっても得意な国語以外の成績はいまいち。心の中にどこか穴が空いていてそこを風が吹き抜けていくようだ…。そんな心中が明確に語られる。
 この彩の独白つまり思考の言語化能力がすばらしく、国語が得意という設定も生きているし、小説向きな子だなんてメタな感想をいうこともできるが、太宰治の『女生徒』を初めて読んだときのような「わかるわかる、この本にはどうして私の気持ちがこんなにはっきりと書いてあるんだろう」というあの感覚に見舞われる…そんな女の子も多いんじゃないかなと思う。
 彩は塾の特別クラスに編入することになる。そのクラスは塾でもまだ試運用中の、画一的な授業をせず一人一人にあった指導をするというところで、彩はそこの五人目の生徒にして初めての女子だった。しかもクラスメイト四人のうち三人はKZのメンバー。ある事件をきっかけに、彩は四人のこの男の子たちと勉強以外の時間を多く過ごすようになる。その中で彩はたくさん初めての経験をして、喜んだり悲しんだり自信を持ったり失ったりするのだが、先ほど述べた通り独白能力抜群の彩が、自分の感情や気付きや学びを言葉にして次々と繰り出してくれるので、読者はまた「わかるわかる」の嵐に見舞われる。私などは「そういうことあるよね、あったあった」程度の頷きに過ぎないが、同じくらいの年頃の女の子だったら、場合によっては自分が感じていたモヤモヤが少し晴れるような、あるいは晴らすためのヒントを得たような気持ちになることもあるのではないだろうか。
 男の子同士の友だち付き合いが女の子同士のそれと全然違ってびっくりしたり、素敵な男の子に守ってもらいたいな〜なんてぼんやり抱いていた憧れと、実際に自分が男の子から女の子扱いされたときに感じたことやとった行動とのギャップに戸惑ったり、受験勉強でそれなりいやそれ以上の成績をおさめながらも、勉強以外の世界を持ちそれを楽しんでいる彼らを尊敬したり、彼らと出会って彩の世界はずいぶん変わったようだ。彩ほどはっきりと言葉にはしてこなかったとしても、自分を好きになったり嫌いになったりに忙しくしながら、こんな風に私たちは大きくなってきたのかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 子供向け?
感想投稿日 : 2023年10月12日
読了日 : 2023年10月12日
本棚登録日 : 2023年10月11日

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