お花屋さんや靴屋さんの並ぶ石畳の通りを歩いて学校から帰る、ピピンとトムトム、二人の少年の会話シーンから物語は始まる。先生の出す宿題のことや、将来の夢のこと、人気テレビ番組『怪盗ダンダン』のことなどについて、ピピンの住むオレンジ色の五階建てのマンション「ドレミファ荘」をぐるりと囲む鉄柵にもたれながら語り合うのが、二人の日課だ。
すると突然、ピピンの頭が急に「爽やかになった」。何が起きたのかというと、ドレミファ荘の三階の窓からにょきっと飛び出した釣り竿が、ピピンのベレー帽を釣り上げたのだ。こりゃこりゃ、大家さんであるドラさんの仕業だなとピンときたピピンは、トムトムと一緒にドラさんの部屋を訪ねる。
ドラさんは、何やら機嫌が悪く、体つきもどっしりとしたいかにも“怖いおばさん”といった感じの登場。ここでたいていの大人の読者は(というか私は)、この恐ろしげで偏屈そうなおばさんが、二人の少年との交流を通して優しくなったり、実は優しい人だとわかったりして、少年たちも何らかの成長を遂げる、的なストーリーを勝手に思い浮かべて「はいはい」みたいな気持ちになってしまうのだが、ところがどっこい、そうはいかないのが高楼方子さんの児童書の面白いところ。(だいたい、通りの人の帽子を上の階から釣り上げる大人が登場する時点で、ありふれた教訓的な物語とは考えにくい。)
このあとすぐに、ドラさんの意外な一面が明らかになり、また次から次へと新しい人物たちが登場してはそれぞれ予想外のふるまいを見せる。この人ここまで掘り下げちゃってこのあとどうまとまるの?ここからまたそんなエピソード始まるの?と、つい余計な心配までしてしまいながらも、彼らの大小様々な心配事があまりに「わかるわかる、そういうことってあるよなあ」という共感を呼ぶので、物語の続きが気になってたまらない。また、ちょっとした言葉の言い回しも可笑しくて、つい吹き出してしまう。例えば、とある女性は花瓶を見ると買わずにはいられない『神経花瓶症』にかかっているとか。
今回は、娘(八)と一緒に寝る前に少しずつ読んだ。どこでゲラゲラ笑ったとか泣いたとかそういうことはなかったが、毎晩熱心に読みたがる様子などから、それなりにお気に召したものと思われる。私は、「たかどのほうこさんの本、面白いよね」とすり込みのための台詞をこまめにかけている。
- 感想投稿日 : 2023年8月31日
- 読了日 : 2023年8月30日
- 本棚登録日 : 2023年8月27日
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