火村英生と作家アリスシリーズの短編で、国名シリーズの一作。
<あるYの悲劇>
ロックバンドのギタリストが殺された。彼は死ぬ間際に「やまもと」そして指に自身の血を掬って"Y"のようなものを書いた。"やまもと"とは誰の事で、"Y"は何を意味しているのか。バンドのメンバーに話を聞きながら意外な犯人を火村は暴き出す。
<女彫刻家の首>
アトリエの中で首を持ち去られ、代わりに彼女の作りかけのオブジェから切り落とされた女神の首が据えられていた。さて犯人はなぜ首を持ち去り、女神の首をあてがったのか。あっさりとしながらも、頷かずにはいられない答えを導き出す。
<シャイロックの密室>
金貸しの男が拳銃で頭を撃ち抜いて死んでいた。そこは男の書斎で、中から木製の閂がされていた。窓には鉄格子。自殺のように見せかけられた現場はしかし奇妙なズレが生じていた。曲がった廊下の額縁。左利きの男の右手から出た硝煙反応。持ち去られたコンビニでの買い物の品。そして滑稽なほどのトリックが結び目を見せる。
<スイス時計の謎>
小さな会社の社長が殺された。いつものように呼び出されたアリスは殺されたのが高校の同窓生だと気付く。男は高校のころ結成した"社会思想研究会"のメンバーとの二年に一度の再会を前に殺されたことがわかる。同窓の友に話を聞いているうちにアリスは朝に見た夢にからめとられていく。書きおろしの長編がうまくいっていなかったアリスは自分の才能が枯渇したような気に陥る。それを救ったのは、ただの旧友との食事会だった短い時間の中でだった。そしてそこは火村の登場によって犯人の仮面を剥ぎ取る狩場に変貌する。
アリスの"偽美少女事件"が披露された面白回でもある。眉を寄せて聞き流した火村が後々突っ込んだのか、想像してしまう。
- 感想投稿日 : 2016年8月29日
- 読了日 : 2016年8月29日
- 本棚登録日 : 2016年8月29日
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