南方熊楠と「事の学」

著者 :
  • 鳥影社・ロゴス企画部 (2005年11月1日発売)
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感想 : 1
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本書は、筆者が京都大学大学院人間・環境学研究科に提出した博士号論文に加筆したもので、南方熊楠が、真言僧・土宜法龍宛てに送った書簡を中心に「事の学」について筆者が考察したものになっています。

南方熊楠について興味があって買った一冊目です。

★★★

「事の学」とは、「物事心」の関係から世界を理解しようという南方熊楠の研究アプローチのことです。南方熊楠は、物、事、心を次のように考えているようです。

 物: 物質そのもの
 事: 精神が物質を捉えようとする過程で生まれてくる現象
 心: 自分自身の精神

そして、表紙の絵(べん図)にあるように物と心の重なったところに事が生じるというのです。

つまり、自然科学は専ら、物を単独で取り扱い、そこに各人の心が入ることを否定してきた(河合隼雄の言葉でいえば「自然科学は『私』と他を切り離すことによって成立した学である」)のですが、それだけでは世界は理解できないだろうというのが南方熊楠の主張になります。

私は、『ソフトウェアテスト技法ドリル』で、テスト対象は構造と振る舞い(モノとコト)でできていると書きましたが、振る舞いというのは、心がソフトウェアそのものに重なった時に生まれるわけですから「物事心」の考え方に非常に納得がいきました。

★★★

その他にも、「因果」と「縁起」の関係についての記述も面白かったです。

「因果」のことを南方熊楠は「筋道」と呼び、実際にマインドマップのように線で結ぶのですが、因-果が生起している最中に、別の因果系列が割り込んでくる場合、それを「縁」と呼びその2つの因果関係が影響しあう時は「起」となると書いています。

逆に言うと「縁」を「起」に変えていくことが大切なんですね。それが発想の広がりから新しいものを生み出すことなんだと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 人文
感想投稿日 : 2012年4月30日
読了日 : 2010年11月24日
本棚登録日 : 2012年4月30日

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