「南京事件」を調査せよ

著者 :
  • 文藝春秋 (2016年8月25日発売)
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感想 : 54

著者の清水潔は、桶川ストーカー殺人事件を、警察の犯罪も含めて事実上”解決”し、足利事件で菅家さんの冤罪を証明する原動力となった「伝説の記者」だ。現役ばりばりだから伝説は変かもしれないが。
その彼が南京事件を扱うとなれば読むしかない。

著者の手法は徹底した現場主義。こつこつと現場に足を運び、関係者に話を聞く。納得いくまで何回でも。
とはいえ南京事件は70年以上昔の話だ。現場は大きく変わっており、関係者もすでに亡い。どうするのだろうと思っていたら、一次資料に当たりまくる。現場の兵士の日記、軍の記録、帰還後の兵士の証言。証言についてはテープやビデオで確認。
これで南京虐殺なんかないというのなら、歴史なんか勉強したって意味ねえよな。
なんで第2次大戦はなかったくらいのことを言い出さないのだろう?

この人の本を読むたびに思うのだけれど、警察より早く犯人にたどり着いたりするのに、やっていることはごくまっとうで当たり前だ。それでどうして、と思うくらい。たぶん、他の人より少しだけ丹念で、少しだけ諦めが悪く、少しだけ生真面目なのだ。
南京事件は著者の追った他の事件と違い、すでに終わった事件だ。本書はそういう意味での緊迫感はなかった。その代わり、著者のもう一つの旅、中国人に対する偏見や、自分の祖父が日露戦争の軍人だった事実を、消化していく過程が興味深い。そこにも目をみはるような飛躍があるわけではない。ひとより少しだけ誠実に、少しだけ生真面目に考えていく。中国に行ったり、中国人と話をするという現場主義がここでも顔を出す。そして著者の出した結論が、これまた平凡で、当たり前ではあるのだけれど、ああ、その通りだよな、と腑に落ちる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史・ドキュメンタリー
感想投稿日 : 2016年11月17日
読了日 : 2016年11月7日
本棚登録日 : 2016年11月7日

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