下り坂をそろそろと下る (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社 (2016年4月13日発売)
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感想 : 108
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オーディオブックで聴書

平田オリザさんの著書はいわゆるビジネス書のような主張をまとめ並べ立てる形式ではなく、エピソードを通して示唆を与える点が好きだ。そのため、単純に読み物として面白く、前著「わかりあえないことから」同様楽しく読めた。

本書で最も大きな主張は、
日本は既に工業立国ではなく、
東アジア唯一の先進国でもなく、
再び世界経済の中心となることはできない。
ということから、下り坂をそろそろと下る、つまり上記の事実を認め、世界に勝てなくても捨て鉢にならず日本の良さを見出し、しっかりとした足取りで経済の衰退の道を辿っていくことが必要だとしている。

私自身日本が経済の中心に未だあると思っていたため、現実として突きつけられると暗い気持ちにならざるを得なかった。しかし、昨今日本の素晴らしさを謳うテレビ番組が溢れていたことに対しては、自信を失った日本人の不安のあらわれだと言う示唆がネット上でも度々見受けられ、日本人の現実逃避として気持ち悪さを感じていたところであり、本書でズバッと切り捨てて頂いた事に心地よさを覚えたものである。

さて、もうひとつ本書で重要となるテーマは文化資本である。物事を指示通りに正確にこなす能力はもはや世界での価値を失っており、これからの時代は、豊かな想像力とそれを人に伝える能力が必要だ。その能力をいかに育むかの点において、都会と地方で質の高い芸術に触れる機会に格差があることを問題としている。現状のままでは、都会で育った人々に地方出身者が太刀打ちできなくなるだろうとのことだ。実際、私はそれほど芸術好きではないが、ネットで伺い知れる範囲において、最先端の文化や芸術に触れるには都会に行かなければならない、そしてそういった文化的教養のある人々がネットビジネスにおいても成功していると感じている。

いち一般市民としては、自分や家族が今後いかにして良質な文化に触れることができるのか模索し、文化的素養を身に着けていきたいと感じた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2019年12月11日
読了日 : 2019年12月11日
本棚登録日 : 2019年12月4日

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