マキアヴェッリ語録 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1992年11月30日発売)
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【注:本レビューは,旭川高専図書館Webサイトの「私の推薦する本」に掲載した文章を,執筆者の許可を得て転載しています】

 最近,中国の上海や深圳を見た旅行者が,日本は完全に遅れ,抜かれたと嘆いている記事を読みました。私は電気情報工学科の教員ですが,確かにサンヨー,シャープ,東芝,NEC などの弱電メーカーの栄光と,現在の変貌ぶりには驚かされています。中国人の日本通が指摘する日本社会の意思決定プロセスの遅さや,小さくまとまろうとする国民性はよくない点という指摘にも共感します。日本にもイケイケドンドンの時代は確かにありました。人間も国も,そういう走り出して止まらない状態では何を言っても反省できません。しかし日本の国力低下が実感できる今なら,今後の日本人や国家としての日本はどうすべきかについて考え,学び,提言を受け入れる準備ができているかもしれません。
 ことわざに「愚者は経験から学び,賢者は歴史から学ぶ」というものがあります。我々日本人がどこで間違ったのか,なぜ今の日本人の暮らしはよくならないか。実はその答えが「マキアヴェッリ語録」に記述されています。これは,16 世紀に生きた賢者の一人,マキアヴェッリさんの思想や言葉をまとめたものですが,彼は「君主論」でこう言っています。「隣国を援助する国は滅びる。」「次の二つのことは,絶対に軽視してはならない。第一は,忍耐と寛容をもってすれば,人間の敵意といえども溶解できるなどと,思ってはならない。第二は,報酬や援助を与えれば,敵対関係すらも好転させうると,思ってはいけない。」新幹線の技術や高度な造船,自動車産業,半導体製造技術,家電の製造。すべて高専を卒業した叩き上げの技術者たちも交じって血の汗を流して試行錯誤し,作りあげた日本の技術です。これが日本に近い国々に積極的な援助として提供されてしまいました。日本は「隣国を援助する国」になったのです。もしマキアヴェッリさんの言葉が日本人全体の共通意識になっていれば,世界の有様は今と違ったものになっていたでしょうし,我々の労働時間や賃金の条件も,よい状態だったでしょう。今は日本製のモノが売れずに国が貧しくなり,現実に餓死者が出ている状況です。
 本ではローマ皇帝であったシーザーさんの言葉も紹介されています。「どんなに悪い事例とされていることでも,それがはじめられたそもそものきっかけは立派なものであった。」という言葉も紹介されています。教育現場でも「学生のために」と始まった事例も多いですが,学生たちに,必ずしも全てがよい結果になったわけではないのではないかと思います。このように国と国の関係,政治家が行うべきことと,行ってはならない事。いずれリーダーになる高専の卒業生が,まず考えなければならない事。何のことはない,役に立つ助言が「マキアヴェッリ語録」に記述されています。よい本ですから,教養として読んでみて下さい。
(電気情報工学科 有馬 達也 先生)


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読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 私の推薦する本 2017年度
感想投稿日 : 2020年6月10日
本棚登録日 : 2021年6月17日

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