夏への扉[新訳版]

  • 早川書房 (2009年8月7日発売)
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感想 : 304
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名作と呼ばれている昔の本は大抵読みにくくて苦手なのですが、「文学少女」シリーズや猫好きにすすめる本などでよく見かけて気になっていたので読みました。この本を選んだのは、表紙の絵や雰囲気が好みだったから。やっぱり装丁は重要ですね。


文学少女シリーズでこの本に関する話を読んだときは、光の中の物悲しさのようなものを感じたのでハッピーエンドではないんだろうなと思っていたのですが、それは文学少女のほうの印象だったらしく、本書はビックリするほどハッピーエンドでした。(一応、不幸なままの世界線も同時に存在しているのかもしれない、という描写もありましたが)
確か、「夏へは、連れていけない。だから、秋へ」とか、そのような感じの文を覚えていて、その物悲しさが好きでした。あれは、「夏への扉」からの引用かと思ってましたが、そうではなかったんですね。

新訳版のおかげだと思いますが、読みにくさは全然ありませんでした。小説内の時代が1970年代だったので、書かれたのもそのくらいかと思ったら1956年!終戦からたったの約10年後。そんな前の本とは思えませんでした。六週間戦争とか、なんのことかわかりません。
惑星間を普通に人が旅行出来てるとか、やっぱり2000年とはそのように期待されていたんですね。そこらへんの描写はやはり年代のギャップを感じます。「夏への扉を探す」という紹介から、もっとファンタジー的な内容を想像していましたが、これも全くちがいますね。現実的な描写でした。

「猫を愛するすべてのひとたちに」との言葉通り、この本を読んでいる間、この作者の方がどれだけ猫のことを愛しているか、というのがよく伝わってきました。ピートの思考や行動、哲学はまさに現実での猫そのもの!ダンのピートに対する考えや行動は、そのまま作者の方にも当てはまるのでしょう。賞賛したいくらい猫の虜ですね!

それだけに、途中でピートを30年前に置いてきてしまった下りでは、読んでいて酷く辛かったです。ベルにされたどんな仕打ちより、ピートをあのような形で失ってしまったことのほうが、遥かに酷い苦しみのはず。あまりに辛かったので、ピートを失ったままのラストだったら「もう二度と読みたくない(作品の出来とは関係無しに)」と思ったでしょう。
ベルはもっと思い罰を受けてもいいはずですが、それでも相当落ちぶれていたのでいい気味です。

自分の途中までの予想では、「リッキーが大人になってお金が手に入り、恋人も出来て心変わり、コールドスリープから目覚めたら既婚の年取ったリッキーがごめんなさいねダニー大人になるってこういうことなの的なことを言われて相当虚しいけどピートがいるからまあいいか、男二人で生きていこうぜ!」という女なんて!エンドになるかと思ってましたが全くそんなことはなかったです。
自分でも不思議なのですが、非の打ち所がないほどのハッピーエンドなのが逆に物足りない気分になってしまったり・・・。別にバッドエンド好きじゃないんですが。

欝成分があまりにも無いせいか、イマイチこの作品がここまで後世に語り継がれるほどか?と感じてしまいました。一作品としてはもちろん素晴らしいのはわかるのですが。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外文学
感想投稿日 : 2012年1月15日
読了日 : 2012年1月15日
本棚登録日 : 2012年1月15日

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