ハーモニー (ハヤカワ文庫 JA イ 7-2)

著者 :
  • 早川書房 (2010年12月8日発売)
4.26
  • (1332)
  • (1034)
  • (408)
  • (56)
  • (24)
本棚登録 : 8077
感想 : 1005
5

21世紀後半、<大災禍>と呼ばれる混乱を経て、人類は大規模な福祉厚生社会を築きあげていた。病気がほぼ放逐され、優しさや倫理が横溢するユートピア。
そんな社会に倦んだ3人の少女は餓死することを選択した。
……それから13年。死ねなかった少女・霧慧トァンは、世界を襲う大混乱の陰に死んだはずの少女の影を見る。


アニメ映画にもなったSF小説。
極端な健康・幸福・調和に支配された、医療・生命至上主義の”ユートピア”と、その調和に馴染めない少女たちを描いた一冊です。

読み終わって、すごいものを読んでしまったという興奮がありました。
体調や感情は常時スキャンされて必要に応じて警告や投薬が行われ、刺激の強いメディアにアクセスするには「心的外傷性視覚情報取扱資格」が必要で、すべての人間は社会的評価点が公開され、公園の遊具は子供が死んだり怪我をしないように可変で知性を持ち、建物は権威的な空間や脅迫的な色を取り除いてある。人間は皆「公共的身体」の持ち主で、「社会的に希少なリソース」である。とにかく過剰なまでに命や公共性、調和が重視される世界で起こった集団自殺事件。
WHOに勤めるトァンは、その真相を追ううちに、学生時代に共に自殺を試みた友人の影を見る。人とは何か、意志とは何か、自分が自分であるという事はどういうことか。SFであり、哲学書のようでもありました。

個人的には、この高度医療・生命至上社会、少し羨ましいと思うところもありました。痛みや苦しみは、自己を自己たらしめる重要な要素ではありますが、味わわず済むならその方が良いですし。実際この世界に生まれていたら、私なんかは全く違和感を持たず過ごしていただろうなと。
とはいえ、この世界では私含めたブクログ愛用者さんたちが愛してやまない刺激的な書籍に簡単にアクセスできないと考えると、やっぱり今の世界のままがいいかな。

ちなみにこの小説、htmlに似たマークアップ言語のようなもので記載されていて、一風変わっています。SFだからね。変わった趣向だなと思って読んでいたのですが、ラストまで読んでぞっとしました。すごい仕掛け。
素敵な読書体験でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: SF
感想投稿日 : 2023年4月13日
読了日 : 2023年4月13日
本棚登録日 : 2023年4月13日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする