洞窟オジさん: 荒野の43年

著者 :
  • 小学館 (2004年4月1日発売)
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シロ…涙が止まらない。
シロが後から追い掛けてきて山で再会した時と、死んでしまう時が悲しすぎて…。
おじさんが、現金を手にするきっかけとなる、蘭が咲き乱れる場所に辿り着けたのもシロのおかげやもんなぁ。

少年期、ひもじさと虐待の辛さよりも、孤独な山籠り生活で野垂れ死にする方がマシって、よっぽどの心境ね。
自ら望んで飛び込ん山籠り生活とはいえ、常人なら耐えられずに発狂すると思う。
おじさんの、20代にして頭髪は薄く、白髪混じりになり、髭モジャで歯無し、物凄い体臭だったというその風貌は、想像するだけで強烈!

山のサバイバル生活で重要なのは、季節の移ろいや草花の美しさなんかに目もくれず、とにかく何かを食って、その日を生き延びる事。
腹の足しにならない、読み書きそろばんなんて、生きるために必要無かった。
でも、現金を手にして、人々と接するようになってから、文字を読み書きできることの便利さ、時計が分かることの便利さを知る。
やっぱり人は、文明に触れずに置き去りにされたままでは生きてゆけない。留置場で近代文明に触れたおじさんの行動は笑えた。

ふと、「食って、生きる」だけの行為の繰り返しの中で、立ち止まったおじさん。
「このまま、何かを成すことも無ければ良いこともなく、生きていても辛いことばかりかもしれない」と自殺を考えたが、樹海で多数の自殺体を目の当たりし、生きる希望よりも死ぬ絶望を知ったおじさん。

いい時代の、優しい人達におじさんが救われる場面は心が温かくなった。
戦争で息子を亡くしたおじさんおばさん
臭い体で大金を持った得体の知れない山男を乗せてくれるトラック運転手
事情も聞かず焼き肉弁当を食わせてくれたおまわりさん
事情を分かってくれる漁業組合長
袋叩きにされたけど病院まで連れて行ってくれたチンピラ三人組
読み書きを教えてくれたホームレス先生の古矢さん
そして56歳での初恋。
人混みが怖くても、人とのコミュニケーションが苦手でも、釣りを通して仲間ができた。
人の中で、人は育つ。むしろ、それ以外には無い。

この本は「生きる」がたくさん詰まった教科書。
子供にも必ず読ませよう。
夏休みの読書感想文は「洞窟おじさん」で決まりだ。

2020年11月08日 

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2022年3月18日
読了日 : 2022年3月18日
本棚登録日 : 2022年3月18日

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