さまざまな人たちの人生の断片を描いた連作短編集。人間関係につまずき傷ついて、前に踏み出せずにいる人たち。彼ら彼女らの人生にほんの少しだけ関わる一人の芸能人・堀尾葉介。眉目秀麗で圧倒的なオーラを持ち、誰にでも好感を抱かせる才能と努力の人。人間的に完璧に思える彼に関わることで変化を迎える人たちの姿がとても優しく描かれています。
というと「感動できるいい話」といった印象だし、実際そうではあるのですが。それだけでもなく辛辣で痛々しい部分も多いです。だからこそ優しさが沁みるのでしょうね。そしてすべての物語に関わる堀尾葉介。彼の人生に何があったのか、という部分も大きな謎であり、彼自身がいったいどんな人なのか、という部分にも興味を抱かされます。何もかもを手にした完全な人間のように思えるけれど、きっとそれだけではあの数々の思いやりを見せることはできないのだろうなあ、と最終的には思いました。
お気に入りは「ひょうたん池のレッド・オクトーバー」。一番要になる物語で、そして一番「いい話」ではないのですが。だからこそ印象的でした。そこに続く最終話の「美しい人生」もまた苛烈でありながら、美しい物語です。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2020年12月26日
- 読了日 : 2020年12月26日
- 本棚登録日 : 2020年12月26日
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