from left to right という日本語の本にはあまり見かけないスタイルと、英語混じりの文章。珍しく目を引くけれど、決して奇を衒ったわけではなく、本作のテーマを書くには必然的に横書きにせざるを得なかったのだと思う。
10代前半で家族に連れられアメリカに降り立った姉妹。1970年代?のアメリカで日本人少女として生きてきた彼女たち。“colored”という言葉に括られる「有色人種」であることを肌で感じてきた彼女たち。20年経ち、アメリカに溶け込めないまま、両親がバラバラになったいまも、「自分は東洋人だ、日本人だ」と強く思いながらも、アメリカにいた。
面白かったのが、20年間アメリカの中にいながらもアメリカの外から見ている感じがするところ。
例えば、JAPという表現。これは、Jewish-American Princessが転じてJapanese-American Princessつまり日本人駐在員のお嬢さんという皮肉的表現らしい。他に、日本でも日本語で書かれた西洋の物語を読んでいたという事実に思いがけず思い当たったり。
語り手である次女の美苗(つまり著者自身)は、こんな風に語っている。
『アメリカに来ることによって「日本の私」を失ってしまったわけではなく、アメリカに来てからも「日本の私」は私が日本語を使う限りにおいてはいきいきと生き続けたからである。そして、「日本語の中の私」こそを真の自分の姿だと考え、日本にさえ帰ればその真の自分を回復できるという思いを抱きながら生きていったのは、「英語の中の私」が私にとってとても自分だと思えない何物かであったからである。』
このような思いを抱きながらも20年間アメリカに滞在し、悩みながらも一筋の「日本語で小説を書く」という決意をする。
Home is not a place to return to.
イスラエル出身の女性がこんな言葉を口にしたと回想するシーンがある。根無し草のように故郷を持たない民族も、この世界にはある。イスラエルの人たちは、皆彼女のように考えるのだろうか。
そして、多分だけれど、日本語という言語と、日本という島国が故郷への思いを強くさせている気がする。日本でずっと育ってきた私には想像もできないけれど、20年もその国にいても帰属意識なんて持てないもんなんかなあ。
- 感想投稿日 : 2017年7月6日
- 読了日 : 2017年7月6日
- 本棚登録日 : 2017年7月6日
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