空の拳

著者 :
  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2012年10月1日発売)
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感想 : 112
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 ジャブ、ジャブ、左フックから右ボディ。ノーモーションから左ストレート!!

 ボクシングって、スポーツの中でも群を抜いて苛酷な種目だと思う。殴るし、殴られるし、けがするし、死ぬかもしれないし。
 減量しないといけないし、孤独だし。

 へなちょこのクーちゃんこと、那波田空也の視点を通して見る、ボクシングの世界。1ラウンド3分。延長も短縮もない。ハンデもない。1対1で、男と男が殴りあう。
 そこは、世のうつろいとは無縁の、時が止まった世界。汗と血がしぶきになってリング下の観客席に飛び散る中、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら試合を見るクーちゃんに、自分を重ねずにはいられなかった。
 あと、胸の前で祈るように手を組み、タイガー立花がやられそうになると「だめえっ!!」と叫ぶクーちゃんにも、自分を重ねた。(笑)クーちゃん、かわいい・・・

 「本当はこわい。すげ-こわい」
報道人に悪態をつくキャラを演じる立花の本音。
 「あー、早く終われ。帰りたいーって、いつも思いますよ」
手本のように美しいボクシングをする坂本君の本音。
 「もう無理だと思うんだけど、ボクシングやめたら俺には何も残らないんで」
六回戦で負け続け、坂本君に追い越されそうになっている中神君の本音。
 しみる・・・

 昼はアルバイト、夕方からジムに来て、3時間の練習その後10㌔のロード。それを毎日続ける。サボりたいと思うことはしょっちゅう。けれど、毎日続ける。
 それでも勝てるとは限らない。血を流し、まぶたを切って目を腫らし、それでも負けてしまう。
 たとえ勝っても、数日後には、またいつもの練習が待っている。更なる高みを目指すには、より厳しい練習をしないといけない。
 男たちは、あの一瞬の栄光を手に入れるために、練習して、練習して、練習する。なんという世界なのだ、ボクシングという世界は・・・

 だからこそ、あのまばゆい光の下で突き上げられた拳は、あんなにも燦然と煌くのか。あまたの男たちは、あのたった一瞬の栄光のために、血と汗を噴き出しながら進むのか・・・!?

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 角田光代
感想投稿日 : 2013年2月20日
読了日 : 2013年2月15日
本棚登録日 : 2013年2月20日

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コメント 2件

円軌道の外さんのコメント
2013/02/20


お久しぶりです!

自分もボクサーで
今ちょうどジムに向かってるところなので
タイムリーなレビューに
嬉しくなりました(笑)(^O^)


角田さん自身も何年か前から
ジムに通われて
ボクシングの魅力にハマったみたいですよね。


そういう自分は
まだこの小説読めてないんで(汗)
近々GETしたいと思います♪


ではでは練習行ってきます!


HNGSKさんのコメント
2013/02/21

円軌道さん>>お久しぶりです。
そうか、円軌道さんも、ボクサーだった!!やー、ぜひお話をうかがいたい!!
しかも、ジムに向かっている最中に、コメントをしてくださるなんて、なんて、なんて、幸運な私。なんて、なんて、素敵な円軌道さん。
練習して練習して練習して、練習しないと掴み取れないあの場所に、円軌道さんはいけるチケットを持っているんですね。いいなあー。かっこいいなあー。

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