漂流 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1980年11月27日発売)
4.29
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感想 : 232
5

凄まじい。横面を張られたような衝撃が走る。これが事実に基づいた小説というのだから、もう一方の頬も張られる。うかうかと安逸に暮らしている身には想像するだに怖ろしい、壮絶な現実だ。

江戸・天明年間、シケに遭って黒潮に乗ってしまった男たちは、不気味な沈黙を保つ絶海の火山島に漂着した。そこは江戸から約600キロ離れた伊豆諸島「鳥島」。水も湧かず、生活の手段とてない無人の島で、仲間の男たちは次次と倒れて行く。果たして、土佐の船乗り長平は生き残ることができるのか…。

私たちの「当たり前」が通用しない、絶望の孤島。火も水もない。目にする生き物といえば、春に去り、秋に舞い戻るあほう鳥のみ。
自然と人間の闘いと書いてしまうのは簡単すぎる気がしています。自然は全く人間を容赦しない。その過酷さがびしびしと伝わってくるのは、著者の沈着な筆によることはもちろん、その背景にある膨大かつ綿密な取材の賜物だろうと思います。
この本は生易しくない。けれど、メロドラマやご都合主義の対極に位置するような、この、心を抉るような読後感は貴重だと思います。まさに著者渾身の長編。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年1月12日
読了日 : 2019年1月12日
本棚登録日 : 2019年1月12日

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