「私はあのひとのいない場所にはなじむわけにいかない」「神様のボートにのってしまったから」
草子のママは、昔、骨ごと溶けるような恋をして、恩師だった桃井先生の元を飛び出し、草子を生んだ。
草子のパパは、必ず戻って君を探し出す、と告げていなくなった。
ママと草子は様々な土地を転々としながら二人で暮らしている。
行き着いた土地で、ママはピアノを教えたりバーやスナックで働き、草子は学校に通う。
少しずつ地域や人に慣れ始めると、ママは引っ越しを決意する。
この物語はママと私、二人の視点が交互に描かれる。
草子の中に「あの人」の面影を感じ、果たされる保証のない約束をよすがに、頑ななほど現状に慣れることを拒むママの視点。
ママから、自分自身ではなく「パパの血を引く娘」として見られていることに傷つき、ちょっと気になる男の子がいてもすぐに離れてしまわなければいけない生活がどんどんつらくなっている草子の視点。
閉じられた二人だけの世界から、徐々に草子が旅立とうとしていく。
どちらの視点に共感するかによって感じ方が全く異なる話だと思う。
私はどちらかというと草子の視点で読んだので、ママの少し現実感のないところとか、閉じた世界が息苦しくてしょうがなかった。
それでも、それほどまでに愛する人に出会い、娘に対してパパがどれほど素晴らしいかを(その話に嘘が混じっていたとしても)話すことができるママをちょっぴりうらやましく思う部分もある。
物語の最後は納得できる人とできない人に分かれるのではないだろうか。
私は、物語全体がファンタジックな雰囲気だったからこそ、最後はぐっと現実的に終わってほしかった。
なんだかすっきりしないまま読み終えたが、読み直した時の状況によって、全然違う感想になりそうな気がする。好きなタイプの話ではないが、懐の深い物語だと思う。
- 感想投稿日 : 2022年5月11日
- 読了日 : 2021年12月31日
- 本棚登録日 : 2022年5月11日
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