秘太刀馬の骨 (文春文庫 ふ 1-30)

著者 :
  • 文藝春秋 (1995年11月10日発売)
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感想 : 80
4

☆4.0

筆頭家老の小出帯刀に近習頭取に取り立ててもらった浅沼半十郎は、以前の筆頭家老の暗殺に使われた「馬の骨」と呼ばれる秘太刀の使い手を探る命を受ける。
主に調べは小出の甥の石橋銀次郎が行うので、求められているのはお目付役といったところだ。
剣を持つ者の噂話として「馬の骨」は矢野家に伝わると言われていた。
早速話を聞きに矢野家へと向かうが、現在の当主の藤蔵は自分は受け継いではいないし、誰に受け継がせたかも知らぬという。
銀次郎は後継者の候補として、先代の高弟五名の名前を聞き出し、藤蔵も含め立合を申し入れ実際に相手と戦っていく。
やがてこの秘太刀探しには藩の派閥争いが関係していることがわかってきて……

他流試合を禁じるが為に、なかなか立合に応じてもらえない銀次郎は"どんな手使っても戦ってやる"とかなり嫌な手段をとるので、どんどん嫌な奴になっていく。
まぁ、好きになれんわな。
振り回される半十郎が可哀想に思いつつ、でも半十郎もあまり好きになれないのだよね。
杉江に対する態度のせいかな。
半十郎の妻の杉江は、長男を病気で失ってから気鬱になってしまい、夫婦仲も良くない。
でも時代を考えるとそんなものなのかという気もする。

この作品は藩の政治の派閥争いと、秘太刀の使い手探しのミステリ的な部分の面白さもあるけれど、この夫婦、とりわけ杉江のことが書かれているのが良いなと思う。

特に、娘の直江が野犬に襲われた後、半十郎に杉江が怒られるところ。
それまで杉江は長男の病気について、医者を呼ぶのが遅れたから死んだのだと半十郎を責めていた。
しかし娘が犬に襲われたときには、側にいたのに見ているしか出来なかった。
幸い娘は無事だったが、半十郎をただ責めていれば良かった今までには戻れなくなったのだ。
だからこそ、ラストに宿屋の息子を自らの手で救えたことが気鬱から抜け出るきっかけになったのだと思う。
この流れがとても良かった。


秘太刀の使い手については、出久根達郎さんの解説に随分混乱したし、まだ混乱してるんだけど、これは同じく読んだ人に意見を求めたくなっている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 時代小説
感想投稿日 : 2023年4月12日
読了日 : 2023年4月12日
本棚登録日 : 2023年4月12日

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