銃口 (下)(小学館文庫) (小学館文庫 R み- 1-2)

著者 :
  • 小学館 (1997年12月5日発売)
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感想 : 39
4

上下巻読了。
三浦綾子だなあ、と思う。主人公が真面目。文章が読みやすい。決して軽いわけではないのだが、とてもイメージしやすい文章である。そして、誠意がある。キリスト教が出てくる。
同じテーマを繰り返し書く人ではあるのだが、それぞれ時代や設定が違い、きちんと取材して書いているので、三浦綾子節とは思いながらも、最後まで一気に読んでしまう。
これは、旭川の質屋の息子が恩師と出会い、小学校教師になるが、時代に翻弄されていくという物語で、大正天皇の死から、昭和天皇の死までの時代、つまり丸ごと昭和史。
三浦綾子も旭川の出身なので、旭川の様子はもちろん、書かれた頃はまだ戦争体験者が多数生きていたから、直接取材によって、戦前戦中のこともかなりリアルに描かれている。
戦争が近づいて、共産主義者やキリスト教徒が弾圧を受けたことは知っていたが、北海道で綴り方(作文)の勉強会を自主的に行っていた教師たちが検挙された「綴り方連盟事件」は知らなかった。酷いとしか言いようがない。
私が幼い頃は教師は日教組に入っていて皆共産主義だ、などと言う人が結構いたが、戦前戦中の弾圧の反動と、皇軍教育の反省から増えたのかもしれない。今はあまり聞かないが。
主人公はノンポリの青年で宮城遥拝も欠かさないし、真珠湾攻撃のニュースを聴いたときは「彼らの後につづくべきだ」と素直に思う。天皇は神ではないとか、政治が間違っているとか考えたりしない。当時の真面目な日本人ならこれが普通で、彼が考えを変え始めるのはかなりの目に合ってからである。だから説得力がある。今見れば、それはおかしいだろうと思うことでも、当時は当たり前だったのだから、読者はちょっとイライラするが、主人公竜太の誠実さもそこから来ているのだ。読者も竜太という人間を信頼できるように書いてある。
いつ芳子と結婚するのかと気を揉みつつ、苦難を乗り越えて、ラスト近くでやっと幸せになれたのは良かった。
三浦綾子は、どんなに悪い奴でも、手酷い罰を与えたりしない。たとえ物語の登場人物であっても。三浦綾子という人もまた誠実で信頼できる人であることを読者も強く感じる。
それにしても、ストーリーテリング、上手いよね。
真面目で、面白くて、感動できて、こういうのを中高生が読めばいいと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年5月6日
読了日 : 2020年5月6日
本棚登録日 : 2020年5月6日

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