精神科医によるものなので、心理的・医学的な見地からのみ書かれているのかと思いきや、非常に複合的な視点から自殺とその予防方法について考察されていて大変興味深い一冊になっている。この本の長所は何と言っても、臨床から得られた観察知見が具体的に記述され、素人でも読みながら考え、考えながら読めるような論の進め方になっている点。それでいて具体例としてのエピソードにばかり流されることなく、適度な紹介と説得力ある解説が施されていて、著者がこれまで取り組んできた自殺予防研究の蓄積の厚みを感じさせる。自殺を観念的、抽象的にではなく、極めて社会政策的に取り上げているところもまさに「自殺を予防する」という具体的な目的を目指すもので明快だ。「自殺は自由意思によって選択された死ではなく、強制された死である」という前提から始まり、「大の大人の選択だから防ぎようがない」、「死ぬ、死ぬと言ってる者に限って自殺しない」というような自殺にまつわる(自己責任論的)誤解や偏見を実に“やわらかく”批判している。自殺についての前提となる認識を与えている点で、これまで自他ともに自殺とは無縁と思っている多くの人に読まれるべき一冊と思う。
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カテゴリ:
社会
- 感想投稿日 : 2008年3月6日
- 本棚登録日 : 2008年3月6日
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