津田由雄は30歳、延という23歳の女性と結婚して半年も経っていない。
お延とか延子とか呼ばれる彼女は細おもて色白、目が細いのだけど眉を動かすと魅力的である。
新婚なのに津田は病気で手術しなければならない、なのにしかしなにやら家計が苦しいのである。そのわけは新妻に高価な宝石の指輪をプレゼントしたから?いや、裕福に育った派手好きの彼女にいい顔をしたからに違いない。
気が強い新妻は新妻とて、なぜだか不安に付きまとわれる。一目ぼれの弱み、彼の愛情を独占したくてたまらないが、いまひとつすっきりしない。深いわけがありそうなきざしがあるのだ。
この夫婦がてんでばらばらならば、相談する津田の両親や親代わりの叔父夫婦と、延の親代わりの叔父夫婦らは、みんなそれぞれ、思い通りにはなってくれない。仲人も友人も妹も津田をつつきこそすれ、親身になってくれない。
くれない、くれないと言ったって、他人は思い通りにならないもの。その他人だって津田がエゴイストと思っているのだから。
その証拠に相思相愛と思っていた清子という人に逃げられた過去がある津田、どうもそんなところに原因があるらしい。らしいしかわからない。なぜなら漱石の死去によって絶筆になってしまったから。
いろいろあって津田が別れた清子を「どうして?どうして?」と温泉場まで追って、ストーカーまがいの行動に移っていくのにはあっけにとられる。漱石さんいいところで筆を置いちゃった。
とストーリーは通俗的?って思わない。ちゃんと立派な近代小説の始まりにして最高峰、そう、こんな長い会話文の(ドストエフスキーばりの)日本の小説が昔にもうあったんだね。迫力満点、おもしろいのなんの、さすが文豪。これを読んで小説を書きたいと思った人が多い、というのもわかる。いまごろわかって恥なんだが。
書いちゃった作家さん、あろうことか続きを書いちゃった水村美苗さんの「続 明暗」すごく楽しみなような、こわいような。
- 感想投稿日 : 2021年8月30日
- 読了日 : 2007年8月25日
- 本棚登録日 : 2021年8月30日
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