アマニタ・パンセリナ (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (1999年3月19日発売)
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感想 : 142
3

故中島 らも氏お得意の
自虐的露悪的なドラッグとの付き合い録。

当人も本文中で述べているが、
最初は「文献」からの引用が多い。
が、徐々に「実体験」の部分が多くなり、
それと同時に、失礼ながら割と「情けない」
ドラッグとの付き合い記述が多くなる。

でも、情けなさ度がアップして行くと同時に
読み物としての面白さが増していくのは、
やはり「実体験」の持つ重みだろうか。

らもさんご自身も、若い頃からシンナーやら
咳止めシロップやら睡眠薬やらもちろん酒やら
いろんなもんの「依存症」となってきた。

無理がたたってアルコール性肝炎で長期入院したり、
さらに鬱病であわや自殺の一歩手前まで行ったり、
かなり「危なっかしい」半生記となっている。

ちなみにらも氏は、エッセイ類では結構
「同じ話をあちこちに書いている」傾向があり、
この本も「実体験」の4割くらいは見覚えのある内容だ。
でも、だからきっと真実なのだろう、と言える。

本書に登場するドラッグ類は「ハシシュ」「コカイン」
「マリファナ」「LSD」などの「いけないもの」から、
キノコやサボテンなどの一応いけなくはないものまで、
幅広く取り上げられている。

この本を読んだ人が、
ドラッグに手を出してみたくなるかと言うと...
どうもそうはならない気がする。

ドラッグとは、別に「素晴らしいもの」ではなく、
かと言ってドラッグ自体には罪も何もなく、
結局溺れるのは人間の弱さだ、と言うことを
冷徹なほどの自己観察で教えてくれている。

そして、ドラッグに「つけ入れられない」ために必要なのは
何をおいても「情報」「正しい知識」だと説く。

何も知らない若者や主婦にまで広がるドラッグ禍は、
「これは禁止されたもので、摂取した結果こうなる」と
正しく知っていれば、少なくとも「知らぬ間に依存症になる」
というようなことはない、と。

そして、正しい知識を持っていて手を出す奴は
「自業自得」だ、と、自戒の念も込めつつ断じている。

またドラッグに手を出しても、足を洗える奴もいれば、
ずるずると抜け出せなくなって破滅する奴もいる。
それはある種「淘汰」なのだと説く。

この冷たさ、厳しさは、「人類皆平等」を標榜する
「似非ヒューマニズム」みたいなものも喝破する。

「酒を飲んでも、誰もがアルコール依存症になる訳ではない。
 俺も含めたごく少数の人間だけが依存症となるのだ。
 ドラッグだって同じはずだ」と説く氏の言葉は、
「何でもかんでも禁止」という「お上のやり方」が、
禁酒法時代の密造酒のように「暴力団の資金源」となり、
無自覚のうちに中毒にされる若者を生むのだ、と続く。

私は別にドラッグを礼賛している訳ではない。
が、この本を読むと、確かに「何でも禁止」の現状が
最善の方法とは思えなくなってくる。

真剣に自国民を守る気があるのなら、
「お上」の人たちももっと考えてもいい気がする。

ちなみに、タイトルの「アマニタ・パンセリナ」とは
毒キノコである「テングタケ」の学名らしい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2010年10月25日
読了日 : 2010年10月25日
本棚登録日 : 2010年9月8日

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