不在

著者 :
  • KADOKAWA (2018年6月29日発売)
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本棚登録 : 630
感想 : 87

例えば、誰かの存在が自分に影響を与えるとして、その人がいるから自分の考え方なり生き方なり人生そのものが変わる、もしくは変わったということがある。それは二人の間の関係、が基になる。
けれど、そこにいない人によって、あるいはいないことによって影響を受け続ける、ということもある。
主人公の明日香の人生が大きく揺らいでいくのは、二十四年も会わずにいた父親の死によってである。
幼い時に離婚によって離れてしまった父親や、「家」からの影響など全然ない、と思っていた彼女が徐々に自分の中にあった「父親たち」を自覚していく過程に心がざわつく。このざわつきは何だろう、と自分の中にある何かを探す。自分が育った家の、育ててくれた両親の、そして祖父母たちと自分の関係をたどる。
楽しかった、幸せだった、笑顔の思い出の日々。その思い出の間にはさまる黒いもの。あえて見つけなければそのまま気づかずに通り過ぎていくような、小さな黒いもの。それを取り出すのはいつだろう。いや、もう取り出さなくてもいいんじゃないか。このまま、見ないふりで生きていこうか。そんなことを考えながら本を閉じる。
「家族」と聞いて一番最初に「笑顔」という言葉を思い浮かべられる人は読まなくてもいいかもしれない。
気づかないでいたい黒い小さなものを知っている人には、きっと刺さる物語。そして、多分、救いになる物語。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2018年6月
感想投稿日 : 2018年6月30日
読了日 : 2018年6月30日
本棚登録日 : 2018年6月30日

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