青少年のための小説入門

著者 :
  • 集英社 (2018年8月24日発売)
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感想 : 74

どこかで作家になることを夢見ている青少年のための小説入門としてこの小説は未来永劫存在していくのだろう。
この「入門書」は一筋縄ではいかない、というか誰にも真似のできない唯一無二のこの二人にだけ許された方法だったのだろうけど、いくつもいくつもヒントはある。
図書館で司書さんにおすすめされた本を片っ端から朗読する、そしてそこからエッセンスだけを抜き取り別の物語を作る、あるいは今まで読んだ本を別の物語に置き換えてそれを当てあう。そういうあれこれはきっとものすごく役に立つだろう。もちろん作家を目指すところまでいかなくても本好きなら誰かとこういうやり取りができればとても楽しいだろうし。
だけど、この物語が唯一無二の二人の物語としてのみ存在するのはそれが登と一真という全然共通点のない二人のそれぞれの個性がぶつかり合い補い合い尊重しあいそして高めあってきたからであって、それはもう他の誰にも真似なんてできるはずもない。
登の生い立ちも一真の現状も、決して恵まれたものではないし、二人が全く別の、もっとなんというか人として間違った方向へと進んでいっていた可能性はとても高かったはず。そうならなかったのは、やはり物語の、言葉の力に他ならないと思う。
そう、言葉は、物語は無限の力を持っている。
誰かの救いになり、誰かの力になり、誰かの夢になる。
登がばあちゃんと過ごした最後の日々。そこに確かにあった切なさと優しさの温度を私も感じた。一真が登のいない毎日の中で感じた風の冷たさも私は感じた。そして、流れる涙の温かさを私は忘れない。
小説が、物語が、文字が、私を包み込んでいった。この記憶はきっと消えない。
そして、この小説を読んだ人は、きっと、ずっと、もっと、物語を好きになる、そう思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2018年8月
感想投稿日 : 2018年8月28日
読了日 : 2018年8月28日
本棚登録日 : 2018年8月28日

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