コスメの王様

著者 :
  • 小学館 (2022年3月15日発売)
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本棚登録 : 769
感想 : 67

牛の代わりに売られてきた少女と、長男なのに奉公に出された少年の「負けない」物語。
花柳界で生きること、そこで暮らすこと。何んとなくしか知らなかったそのしきたりやきまりごとを調べながら読む。
おちょぼ呼ばれる見習いから舞妓、そして芸妓へと美しさと芯の強さと踊りを武器に駆けあがっていくハナ。どぶにはまって死にかけていたところをハナに拾ってもらいみなにかわいがられ見守られていく狸の子と呼ばれた利一。
お互いの身の上のやるせなさに泣いた日、そして幼い約束。
花隈一と呼ばれる芸妓花千代と東洋の化粧品王と呼ばれ一大企業を作り上げた利一の、二人の成功譚ではあるけれど、人が成功していく過程で大切なこと、人として失ってはいけないこと、そして捨てなければいけないこと、が描かれていて変なビジネス書よりも深い。
どんなに社会が機械化されようと、最終的にたどり着くのは「人」。人と人の縁を信じ、己の力を信じ、前を向いて生きていくことの、最終的な目的地がそこであったことの安堵。
二人の行く末が気になって気になってどんどんページをめくってしまった。どうなるんだ、この二人の未来に幸はあるのか。
実際に東洋の化粧品王と呼ばれた人物をモデルに描かれたこの小説の、艶やかで華やかで、それでいて泥くさく地に足就いた世界が、本当に本当に心地よくて、読んでいる間ずっと頭の中が関西の花柳言葉だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2022年3月
感想投稿日 : 2022年3月25日
読了日 : 2022年3月25日
本棚登録日 : 2022年3月25日

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