おそらく、本で読んだだけならここまで強烈に印象に残ることはなかったことだろう。
毎朝のNHKの朗読で一回、それを録音で収録したものでもう一回。初夏のウォーキングのなかで聴いた。
柔らかな紀州訛りと、もう失われた少し遠い時代の生活や言葉を背景に、“真谷のごっさん”花の見つめた世界に同化しながら浸った。
そして、もう一回この手にしている本で三度目の『紀の川』を渡った。
三度ともなれば、すべてがもう知り抜いた既知の世界。展開も、台詞も文字を目が追う前に既に知れている。
ただ味わった。もう一度この心地よさを。
何が心地よいかって?
それは花の“美しさ”だ。小説のなかでも、その美貌を表現する箇所はあるが、それだけでは私の心は動く筈はない。
豊乃に英才教育されて身につけた教養と躾、身のこなし。それだけでもない。
それらと彼女の生きた運命が化学反応して発光する輝きが、孫娘華子(有吉佐和子)によって見事に描かれているのだ。
絵画に描かれた女性に恋する青年の気持ちと同じだ。
もう、現実には存在し得ない、失われた“美しさ”だ。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2021年7月4日
- 読了日 : 2021年7月3日
- 本棚登録日 : 2021年7月3日
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