丘の屋敷 (創元推理文庫 F シ 5-1)

  • 東京創元社 (2008年10月12日発売)
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感想 : 31
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80年前に建てられた〝丘の屋敷〟と呼ばれる家は、これまで何人もの人が借りて住んだものの、いずれも短期間で出て行ってしまうという、いわくつきの屋敷でした。そんな建物に興味を持ったのが、怪異な現象の謎を解き明かそうとするモンタギュー博士。博士はこの屋敷を借り受け、調査の手助けになると思われる何人もの人物に招待状を出しますが、その招きに応じたのが、屋敷の持ち主の甥にあたるルーク、透視能力を持つと思われるセオドラ、そして物語のヒロインであるエレーナの3人でした。モンタギュー博士は、先入観に囚われない学術的見地から調査にあたろうとしますが、4人は次々に不可思議な現象に見舞われます。ところが彼らは、怯えながらも平静を装い、その振る舞いには陽気さえ感じられます。
エレーナは青春時代のほとんどを、病弱な母親の介護についやし、30歳を超えていまだ独身の女性です。彼女は母親が亡くなり、〝丘の屋敷〟の招待に応じることで、はじめて開放感をおぼえていました。屋敷で生活するうちに、そんな彼女の内側で何かが変化していきます。その様子が心理描写を通じて表現されています。
ひとがほんとうに怖れるのは、自分の胸の奥底を覗き見て、そこにあるものに気づかされることなのかもしれません。ヒロインの孤独が痛々しく、とても哀しい物語でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外文学
感想投稿日 : 2012年5月18日
読了日 : 2012年5月18日
本棚登録日 : 2012年5月18日

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