江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者 (光文社文庫)

著者 :
  • 光文社 (2004年7月14日発売)
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感想 : 102
5

再読。内容はネタバレ含む(覚書のため)。

・二銭銅貨
「南無阿弥陀仏」の暗号。「ゴジャウダン」は傑作だと今でも思う。点字に目をつけたところもなかなか。

・一枚の切符
博士夫人が轢死体で見つかり、殺人容疑で博士が逮捕。重石と飼い犬を使ったトリック。ただ、夫人が本当に「犯人」かどうかはぼやかされている。

・恐ろしき錯誤
火事で妻を失った夫が考えだした、犯人あぶりだしの方法。妻が大事にしていたロケット(実際はそんなもの、そもそもなかった)に各人の顔写真を張り付けておいたものを使い、脅しをかけてみるという手法だった。着想もいいし、オチのつけ方も格好をつけて、珍奇なものにしていないところがまたよし。

・二癈人
夢遊病者と「思わせる」というトリック。当時としては、斬新な発想だったのではないか。

・双生児
一卵性の双子の入れ替わりは古典的だが、このお話のメインテーマは「指紋」。指紋のネガティヴ部分を勘違いして、兄の指紋だと錯誤してしまった。
2013/01/02追記:この作品のトリックは某有名海外推理小説家の某作品にもある。

・D坂の殺人事件
人間の記憶なんて頼りない、というテーマをもとに書かれた作品。実際のトリックよりも、「私」が、「格子のせいで、見る位置から服の色が違う風に見えた」という推理したことがやたら頭に残ってしまっていた。

・心理試験
蕗屋の人となりがいいね、好み。因みに蕗屋のモデル(というか着想)は『罪と罰』のラスコーリニコフから。駆け引きの過程が好み。

・黒手組
暗号の一面として、糸を使ったトリックに似たきらいがあることが指摘されよう。明智が二組のカップルの月下氷人となった作。しかし、罪作りな娘よ。

・赤い部屋
ブラックユーモアがあって好き。アニメにもなっているが、あれよかやはり原作の雰囲気がいい。

・日記帳
恋を表す方法に、切手を斜めに張るものがあると知ったのはこの作品から。哀愁が漂う。

・算盤が恋を語る話
そろばんを恋文の代わりとして使う男の話。偶然がかくも残酷とは。

・幽霊
明智がまさか登場しているとは。死んでいると思われた人が、実は生きていたという話。戸籍謄本の偽造は今では出来ぬだろう。

・盗難
新興宗教の金庫からまんまと大枚をせしめた盗人の話。

・白昼夢
屍体を屍蝋にした男の話。

・指環
「全く黙殺された」話らしいが、そんなに駄作とも思われない。

・夢遊病者の死
「花氷のトリックは、西洋の作品にも前例がない」と乱歩自身評しているが、類したものなら前例はあるように思われる。また、本作のようなトリック一本槍の話は歓迎されなかったと嘆いているが、本作に限って言えば、そう評されても仕方なかったように思う。夢遊病をテーマにした「二癈人」のほうが着想も筋もいい。

・百面相役者
アイデアは好き。どんでん返しは少々安易。

・屋根裏の散歩者
明智は好きだが、むりくりに登場させなくてもよかったと思う。

・一人二役
しっかりと落とせている。実話が下敷き。

・疑惑
変に凝りすぎて、やや冗長のきらいがある。「無意識」の殺意をテーマにした意欲作。

・人間椅子
大好物。城昌幸氏の「怪奇製造人」につながるものがある。

・接吻
無賃で「やッつけ」で書いた作品。好き勝手やった感じがそこはかとなく出ていて好きである。写真の撮り違えの描写など、若干取ってつけた感じがあって想像しがたかった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリ
感想投稿日 : 2012年10月19日
読了日 : -
本棚登録日 : 2012年10月13日

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