鏡子の家 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1964年10月7日発売)
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昭和29年~31年を舞台に
刹那的であろうとする若者たちの群像を書いたものだ
しかし彼らは要するにスタイリストの集まりでしかないので
どうしてもいろんなことを考えてしまう
同時代、都会の若者には、やはり三島由紀夫の年寄り臭さを
難ずる声も多かったらしい
武田泰淳の小説(ニセ札つかいの手記)にそういう意見があったのだが
結局、悪ぶってるポーズが鼻についたという話なんだろう
快楽を前にしては
考えずに飛びつくのが刹那主義の現代的解釈であるからして
つまり、この物語の主人公たちは、刹那を楽しめない人々だった
刹那を気取りつつも
真実の愛だの立身出世だのいう価値観に未練を残し
現実に対してシニカルな態度しかとれない
そうやって抱え込んだ自分だけの絶望をナルシスティックに愛しつつ
世界の終わりを夢想することで、未来の不安をごまかしてる
そんな連中だ
他人の目を恐れてばかりの悲しいヒューマニストたち
生きることは極私的な負け戦であるという事実に
どうしても耐えられない
それでもまあ
自殺する勇気がないから「生きよう」なんて
ポジティブを装って居直るフリをした「金閣寺」の頃に比べりゃ
ずいぶん進歩したものである
しかし、たったそれだけのことを五人前にも嵩増しして
長々と書く必要はあったのだろうか?
そう問われるならば、これはあったに違いない
三島が欲していたのは、理想を共に並び見る同志だったんだから
…その内実が、世界の終わりであったにせよ

なお、「鏡子の家」を書き上げた三島は
次いで「宴のあと」に着手したのだが
三島由紀夫のキャリアにおいて
ここが、最も重大なターニングポイントではなかったか
個人的にはそう考えてる

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感想投稿日 : 2018年12月31日
本棚登録日 : 2018年12月31日

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