新装版 テロルの決算 (文春文庫) (文春文庫 さ 2-14)

著者 :
  • 文藝春秋 (2008年11月7日発売)
4.07
  • (103)
  • (125)
  • (59)
  • (8)
  • (2)
本棚登録 : 1179
感想 : 100
3

山口二矢の父は、生きるため、稼ぐためにさまざまな職を転々とした
家庭用インターネットなど影も形もない時代
二矢少年は転居のたびに友人関係のリセットを余儀なくされ
新たな人脈の構築に苦労するハメとなった
それでも、お父さんが働いてくれているから生きていけるんだと
そんな思いで押し殺した鬱屈が
やがて政治的な感情にすり替わっていったのではないか
お国あってこそ我々日本人は生きていかれるというのに
左翼の連中はわがまま放題、好き勝手なこと言いやがって
許せん
だがそんな二矢を、父もまた全面的に理解してくれるわけではなかった
その寂しさが彼を先鋭的に駆り立てていった

二矢の幼い頃、父は農地改革や投資促進のための啓発演劇を
生業として行っていた
二矢も子役に駆り出された
その頃浴びた喝采と、父に誉められた記憶を
もう一度取り戻したかったというのは、ありそうな話だ

そんな少年に襲撃されたことは
浅沼稲次郎にとってはまさに晴天の霹靂であった
とばっちり、八つ当たりもいいとこだが
しかし社会党委員長の浅沼にとって山口二矢は
運よく政治家として生き延びてきた大戦時代からの
遅れて来た死神のようでもあった
生前、なあなあ居士と揶揄されることもあった浅沼は
大正~昭和~戦中~戦後と変化する日本社会に
迎合することで生き延びた人だったが
生き延びるための変節
その無責任を通すことこそ政治の本質と考えているフシがあった

そんな浅沼稲次郎もやはり、孤独な少年時代を過ごしていた
まあそれはよくある偶然だろう

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年3月17日
本棚登録日 : 2017年3月17日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする