・かつて岩波文庫の久保勉訳で読んだことがあるが、それよりも格段に読みやすい。もちろん格調高い久保氏の翻訳が果たした功績は尊重されるべきと思うが、教養主義の時代が終わった今、難解な哲学書を平易な日本語に訳しなおす時期にきているのだと思う。この新訳の誕生を素直に喜びたい。
・ただ、スラスラ読めてしまうだけに、ソクラテスの主張を「判ったつもり」になってしまうのが唯一の難点だ(「無知の自覚」を促したソクラテス先生に申し訳が立たない)。しかし、誤読・誤解しやすい箇所は訳者解説で丁寧に注意喚起されていて、訳文といい解説といい、本当に心が行き届いていると思う。
・原告からの死刑求刑に対して、被告人ソクラテスが「自分は何も悪いことはしていない。むしろ善いことをしたのだからメシを食わせろ」と放言するくだりなどは、とんでもなく滑稽な場面であり、喜劇的ですらある。思えば、ソクラテス裁判自体が、全体を通じて、ソクラテスが弁明すれば弁明するほど裁判員の反感を買って死刑に近づいていくという一種の喜劇的な構造を持っていることに、今さらながら気がついた。
・ソクラテスの死を単なる一面的な悲劇として取り上げるのではなく、多面的な悲喜劇として描き切ったプラトンの文学的力量は流石だ、とも思う。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
思想・哲学
- 感想投稿日 : 2013年4月14日
- 読了日 : 2013年4月14日
- 本棚登録日 : 2013年4月14日
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