何気ない日常の一こまに、ふと胸をよぎる小さな何かをこれほど見事に切り取ってみせる作家が他にいるだろうか。
決して押しつけがましくなく、でも確実に誰もがその思いにそっと寄り添えるような、そんな心の内を、さりげなく穏やかな筆致で描いている。
菊池寛を読んだ時も短編の名手と思ったが、彼が簡潔で直接的であるのとは対照的に、三浦氏の場合は、一歩離れた所から、余韻をもたせつつその余韻のなかから滲み出るものを感じ取らせるような、そんな作品の作り方だ。
菊池寛とはまた別のタイプの短編の名手と言っていいのではないだろうか。
小川洋子の「偏愛短篇箱」で初めて三浦氏の作品(本書にも収録の「みのむし」川端康成文学賞受賞)を読み気になり、「肉体について」を手にしてその魅力にとりつかれた。
とにかく、三浦氏の文章が好きだ。
久しぶりに自分が「気に入っている」と思える作家に出会えたかもしれない。もう著者の新作は読めないと思うと悲しくなる…。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説(日本)
- 感想投稿日 : 2011年8月3日
- 読了日 : 2011年8月3日
- 本棚登録日 : 2011年6月29日
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