神尾茉利さんの『刺繍小説』に紹介されていた一冊。トリツカレ男なんて、ちょっと変わったタイトルだけど、主人公のジュゼッペと親友とも言えるハツカネズミの軽妙でささやかな毎日に、ほんの数行で惹かれてしまった。
私達の毎日で、トリツカレちゃうほど夢中になる何かを、一体いくつ持てるだろう。ジュゼッペみたいに感情の起伏が激しい日常じゃ、長いお休みをもらえない私達は、暮らしにくいだろう。でもジュゼッペを見てると、全然馬鹿げては見えないし、むしろ多才なのに、なんとなく報われない彼が愛おしくなる。
この頑張りは、なんのためだろう。そう思っていたら、彼は出会ってしまうんだ。たった一人の大好きな人、可愛い少女、ペチカと。ペチカはとっても可愛い。健気な女の子。ジュゼッペといるのが楽しくて仕方ない。ゆっくり心を近くする二人。だけど…。
報われなくても、自分がきゅうっと苦しくても、愛してる人のためなら、何だって出来る時がある。そう、なんだって。彼女が笑ってくれたなら…。まるでバレエの『ペトルーシュカ』みたいに、ジュゼッペは壊れてしまうのかなって、泣きそうになりながら読んだけど…。そこから先は、ないしょ。悪いやつが一人も出てこない、この恋物語を読んでほしい。
眠れないからってラジオ聴きながら、心はこの小さな本に傾けて、ものの30分で読んでしまった。明日まで、もうちょっと。嫌にならずに眠って、朝日と一緒に起きてみようって、幸せな気持ちになったから。
レビューだけ見てつまらなそうなんて、どうか言わないで。目玉焼きを二人分こさえる間にも、トリツカレてすいすい、きっと読んじゃうだろうから。
- 感想投稿日 : 2020年8月2日
- 読了日 : 2020年8月2日
- 本棚登録日 : 2020年7月23日
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