BANANA FISH (11) (小学館文庫 よA 21)

著者 :
  • 小学館 (1997年5月16日発売)
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感想 : 55
5

「あいつは憎んで覇者となるよりも
愛して滅びる道を選んだんです
その命がけの選択を認めてやってはもらえませんか」
ああ。アッシュ…。

言葉にすれば陳腐だけどまぎれもない「愛」の物語だった。それは「憧れ」だったり「血の繋がり」あったり「執着」であったり「嫉妬」であったり、様々なかたちをしていた。
あのディノですら結局アッシュに向けていたのは愛だったのだと読み終えてみてよくわかる。

アッシュの生きざまは、傷だらけになりながら命を燃やして生きる様は、「生きる」とは何なのかという哲学的な問いにひとつの答えを提示していたように思う。

アッシュと英二くん。作中では「親友」って表現されてたけど、個人的には「ソウルメイト」とでもいうのがしっくりくるふたり。
会えない間も、たとえもう会えないとしても、お互いのことを想い合い、その存在がいることで前を向いていられる、強くなれる、救われる。
それって相手がもう魂の一部になったということだ。
なんと切なく美しい関係だろうか。

英二くんはアッシュを「守りたい」と言った。自分の命も、その上で他人の命も守ることができる強靭な身体を持つアッシュに対して。
アッシュは英二くんに「人殺しはさせない。俺が守る」と言った。
おそらく彼らは人間としての尊厳、心の一番柔らかい部分、一番プライベートな部分、お互いの心臓をさらし、互いのそれを何より大切に思い、守ろうとしたのだ。
それって凄まじい結びつきだ。セックスをするよりも余程。
だからアッシュと英二くんという男同士の関係が描かれたのだとわかる。男女じゃ性欲やセックスという単純明快な欲望を媒介とする関係がどうしても発生してしまうから。
この作品はそうじゃない究極の結びつきを描き出したかったんだろう。
性的な欲望に傷つけられてきたアッシュ(ここは作者や読者の女性とも読み替えられる)が、求めるものはきっと欲望を媒介としない、それでも深く結び付き合った関係だ。

対等に愛し合う人間と人間の関係、それによる自分自身という存在や愛への問題提起と追求、
それらを描くという意味でこの作品はまぎれもなく少女マンガだった。内容がハードでも、視点のありかが少女じゃなくても。大切な誰かへ向かう感情がわかりやすい恋愛感情(性欲)じゃなくても。

傷だらけになりながら、それでも「生」や「愛」を求め続け、そのありかを全身で訴え続けた彼らの物語はきっとずっと忘れない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: マンガ
感想投稿日 : 2018年8月21日
読了日 : 2018年8月21日
本棚登録日 : 2018年8月21日

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