宮本常一が郷里の山口県大島について、自分の子供時代を中心に書き記したもの。昭和18年刊行なので初期の作品と言ってよい。
100年で日本はかくも変わったかと思うし、人々の心のありようには確かに変わっていないところもある。出稼ぎに行っている男が「正月には島に帰って故郷の言葉で世間話をしたい」と語るような古き良き面と、農繁期にちょっと洒落た格好で歩いていると田んぼに引きずり込まれてしまうよな息苦しい村社会の面と、コインの裏表と言える。→今からこのような社会に戻ることはないのだが、かと言って己のルーツをさげすむこともない。
子守で学校についていって字を覚えた母の話や、千本幟・潮かきなど、しみじみとした感慨を呼ぶエピソードが多い。子育てに祖父母が果たす役割の大きさ、百姓は土を怖がらないと一人前でないなど。
書かれた時代ゆえであるが、戦争へ出征する兵隊への言及も多い。非常に肯定的というか重要な使命として受け止めている。これは渡辺京二が書いていた、日本の戦争を支えていたのは村社会である、という言説を裏打ちするかのようだ。古き良き時代であるが、やはり共同体の桎梏には厳しいものがあったのだ。
「私のふるさと」併録。解説によると昭和47年執筆とのことだが、もっと古いような気がする。
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本・雑誌
- 感想投稿日 : 2018年11月5日
- 読了日 : 2014年10月6日
- 本棚登録日 : 2018年11月5日
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